昨日消えた男
2008年1月29日 東京国立近代美術館フィルムセンターにて(生誕百年 映画監督 マキノ雅広(1)
(1941年:日本:89分:監督 マキノ正博)
映画に関係ない話ですが、わたしが短大生の時、第二外国語としてフランス語、ドイツ語を選ぶか、女性学を選ぶか・・・という選択がありました。
語学を選ぶと週2時間のところ、女性学だと週1時間ですむ・・・それだけで受けたのが女性学でした。
文学の中の女性像、みたいなことが中心だったと思いますが、その中で、先生が、確かヘミングウェイの作品に出てくる女性はただただお飾りの「植木鉢の花」だっ!ときっぱり言い切っていたのを覚えています。
植木鉢の花。
まぁ、中学生くらいのときから映画を観るようになって、その後も映画を色々観てきて、時々、「ああ、植木鉢の花」と思うことが、たまにあるのです。
ただただ、男の人の眼福のような、かわいい、美しいだけの鑑賞物のような女の子や女の人がスクリーンに映って動いて、喋っているなあ、と。
マキノ監督の映画を観て、びっくりするのは、確かに、夢の女は出てくるけれど、それは決して、植木鉢の花だけで終わらせていないことです。
あるとしたら、今はない、日本らしさ・・・一番は時代劇ものの着物。
着物を着ているからこその、身ぶり、しぐさ・・・髪型・・・そんなものをきちんと出しているということはあるかもしれませんが、それは男の人だって同じ。むしろ、男の人に「こんないい男、いませんぜ」ってものを求めているような気がします。
マキノ監督の映画に出てくる女の人、活躍する女の人は、もう、男の人に負けないくらい、イキイキ、しゃきしゃき、またはしっかり、おとなしくても、気丈だったり、実に様々な女を描ける監督なのだなぁ、と思います。
実際、映画出演をためらう越路吹雪に
「顔の形がいいとか、美しいということだけなら人形の方が完璧です」と言って説得した、という話があります。
『昨日消えた男』での、山田五十鈴の元気のよさ、虹川清子のおかみさんぶり・・・・長屋の女房たちのイキイキとしていること。
それは、借金を抱えて御曹司なのに、長屋暮らしをしていて、長屋生活の良さを身にしみている監督ならではの世界。
この映画は、10日間で撮影されたそうですが、長屋の中で起きる殺人事件・・・というもとはアメリカの推理映画を遠山の金さんに置き換えて作られた、ミステリ時代劇。
誰もが嫌う大家が殺された!しかも、一回発見された、死体は、何故か消えていて・・・・。
ところが、誰もが嫌うゆえに、長屋の人はすべて、といっていいほど動機があり、容疑者がいっぱい!
長屋の住人たちが大騒ぎですが、第二の殺人が起きる・・・・ますます混乱。
そんな中で、芸者の山田五十鈴と、流れ者のやくざ、長谷川一夫は、口では、言い合いばかりしているけれども、なんとなく憎からず思っている。
でも、会えばへらずぐちがポンポンポンポン・・・・・・・そのテンポのよさといったら。
山田五十鈴の見事な勘違いぶり、というのもおかしいし、虹川清子の夫婦は、いつも喧嘩ばかりしているけれども、なんとも焼きもちの焼き合い合戦。
誰がどうやって?そんな謎と怪しい人物(レッド・へリング)の泳がせ方など、巧妙です。
まぁ、謎ときはあるのですが、それもなんとも意外な方向へ行って、長屋の人もびっくり、観ているわたしもびっくり。
こういうユーモアあふれるミステリって、なかなかないですね。
とても好きです。山田五十鈴のかわいらしさもピカピカしているし、長谷川一夫のいなせでおしゃれで、生意気な様子も自然で楽しいです。
ミステリの楽しさ・・・というものを実にしっかり出していますね、この映画。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
0コメント