奈緒子
2008年3月9日 渋谷 アミューズCQNにて
(2007年:日本:120分:監督 古厩智之)
子供のころから、走ることが苦手だったわたしは、陸上部というものには入ろうなんて到底思いませんでした。
特にマラソンの苦痛・・・というものが身にしみている・・・
だから、軟式テニス部だったわたしは、校庭の隅で黙々と走っている陸上部は理解ができなかったのです。
なぜ、走るだけなのに・・・・何がおもしろいのかなぁと・・・(そんな事を思っていましたが、テニス部は大変厳しくて、暗くなってボールが見えなくなると陸上部と合流でさんざ、走らされたのであります。テニスの基本は、走る体力なのだから)
この映画は駅伝の映画です。つまり、とにかく「走る」
走るところを、これでもか、これでもか・・・とあの手、この手で走る姿を映します。
当然ながら、出てくる役者さんは、皆、走る、走る、走る。走る映画であります。
それが大変、美しい。
躍動感に満ちていて、走っている時に顔や体にあたる風がそのままスクリーンから吹いてくるようで。
それを映すカメラもよく走ります。
駅伝で、遅れをとっていたのをどんどん抜いていくのをランナーの視線で走るカメラ。
タイトルになっている奈緒子(上野樹理)が走るのではなく、陸上界の天才スプリンターと言われる俊足の持ち主、壱岐雄介という高校一年生を走るのを「ひたすら見守る」のです。
壱岐雄介役の三浦春馬という男の子の走る姿が大変美しくて、タイトル『春馬』でもいいかな、と思うくらい走る姿が美しい。
奈緒子と雄介は、子供の頃出会っただけですが、奈緒子のせいで、雄介の父は死んでしまった。
喘息持ちなのに、陸上に興味を持つようになった高校生になった奈緒子は、大会で、活躍し、注目されている「あの走るのが好きだった雄介くん」と再会するのです。
しかし、この2人の間には距離がある。そして陸上部の顧問、西浦(笑福亭鶴瓶)は、昔の事情を知っていて「2人とも、時間はあの時で止まってしまっている。それを動かしたい」と、九州の波切島という島の高校での陸上部の夏合宿を、奈緒子に手伝ってもらいたい、と頼む。
だから、若い2人の恋物語ではなく、止まってしまった2人の時間が再び動き出す・・・それを描いています。
奈緒子は主役というよりも、いつも黙って見守っている・・・と前には出てきません。
雄介と親しくなりたい、という努力もあまりしようとはしません。
でも、なんとか、なにかしたい・・・・という気持の方が強いようです。
それをよくあらわしているのが、最初に出てくる駅伝での給水のための水を手渡そうとするところ。
このシーンは「上手く走れない」奈緒子が、「早く走っている」雄介に追いつこう、水を手渡そう・・・・とよろけるように走る・・・きれいに早く走るだけでなく、追いつこうとして走る・・・そんな姿を綺麗にまた、哀しく印象深い描き方をしていました。
走っているシーンだけで、2人の気持を描いてしまっています。
短距離ならば、ひとりトップになればいいところ、あえて、駅伝を選ぶ雄介。
駅伝、というのは、団体競技なのだ、ということが強調されています。ひとりだけが早くてもダメだし、誰かが遅ければ、チーム全体が負ける、ということになります。
しかし、この映画は勝つとか、負けるとか・・・そういうことにはあまり目を向けません。
あくまでも、駅伝に勝つのは、陸上部の目標である・・・というとらえ方です。
だからこそ、人数の少ない島の高校の陸上部は、一年生の雄介に対する嫉妬のようなものもでてきて、なかなかまとまらないのです。
確かに雄介の実力は認める・・・けれど素直になれない・・・なんか、気に食わないんだよな・・・そんな陸上部の生徒たちの気持や葛藤も出てきます。
「俺はおまえにたすきを渡すだけのつなぎ、か?」
腰痛のため、医者から、ウォーキングで足腰鍛えなさい・・・と言われても「なんだかなぁ」と体を動かさないわたしが、映画を観ていて自分が体を動かしているような・・・そんな錯覚を覚えるのです。
古厩監督は、『ロボコン』でもスポ根ものを撮っているのですが、この映画とは全く違っています。
また、『さよなら、みどりちゃん』で見せた手痛い純愛のしっぺ返し・・・といったことも避けています。
近づくことなく、距離を置いて、走る2人。それをひたすら追います。
個人的に気に入っているシーンは、駅伝の九州大会・・・あれこれいざこざがあった陸上部もさすがに、最終区を走る雄介を応援しますが、市電で移動するんですね。
駅伝のことが気になって、降りるときに、ああ??電車賃!!ってあわてるとしっかり者の女子マネージャーが、「全員の分、あるから」とジップロックに入れたお金をさっと出すところですね。
走る男の子たち・・・だけでなく、しっかりもののマネージャーのかわいらしさも一瞬ですが見せたところに、意外とほろ、とかしてしまいました。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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