おかる勘平

おかる勘平

2008年3月11日 東京国立近代美術館フィルムセンターにて(生誕百年 映画監督 マキノ雅広(2)

(1952年:日本:92年:監督 マキノ雅弘)

 このサイトの「アジア映画好きへの100の質問」という頁で、「アジアでリメイクしたらいいと思う映画」にわたしは、フランソワ・トリュフォー監督の『アメリカの夜』(1973年)をあげているのですが、すみません、無知でした。

もう、マキノ監督はその約20年前に、こういった映画をすでに作っているのでした。もう、恥ずかしいなぁ・・・・・。

フランソワ・トリュフォー監督が、この映画を観ていたかどうかは、わからないのですが。

 『アメリカの夜』は映画の撮影のバックステージものでしたが、この映画は、帝劇で上演されているオペレッタ『お輕勘平』と、その舞台裏の人間模様をテキパキと。

 『アメリカの夜』は、映画を作る人たちの人間味がとてもいい、と思うのですが、この映画も舞台というものを作る人々の人間味というものが実にみっしりと、もしかしたら『アメリカの夜』以上に、というか、より日本人的な人情味にあふれているかもしれません。

 オペレッタ『お輕勘平』という舞台も楽しめるし、その裏の人々という・・・お得感、2倍な映画ですね。

 座長は、「羽根本健一」(榎本健一・・・エノケン)、相手役は、「山路吹雪」(越路吹雪)という、エノケンは小柄で、越路吹雪は背が高い・・・そんな凸凹コンビが、逆に人気の舞台なのですが・・・・

 舞台監督が、牛島という男で、森健二が演じていますが、見た目もマキノ監督そっくりで、明かに監督の分身ですね。

とはいえ、牛島が主人公ではありません。

誰が主人公、というわけではなく、群集劇的なうまさがあります。

 越路吹雪は、婚約者が舞台をやめろ・・・と言うのに悩んでいる。婚約者が観に来たりするととちってしまう。

エノケンに、甘えて相談すると、怒るのです。

「そんな個人的なことで大事な舞台でとちるなんて、もうやめてしまえっ!」

プロ根性がないっと、怒りますが、大部屋の踊り子たち(その中の一人が岡田茉莉子)が、せっかくもらった給料が、誰かに盗まれてしまい・・・大騒ぎで泣きまくっていると知ると、借金してでも、こっそり穴埋めをします。

(この劇場の食堂のおばさんが、高利貸しのようなことをしている、というのも可笑しい・・・そして、座長が給料穴埋めしてくれた、と知った踊り子がこっそり楽屋にチューリップを飾るものの・・・エノケンはその花が「チューリップ」という名前を知らないとか)

 エノケンと越路吹雪の舞台での芸達者ぶり、と舞台の裏での師弟関係というのもいいですね。

エノケンは、「先生、先生」と呼ばれている座長ではありますが、「さびしい人なんですよ」と言われている。

女性とつきあわず、ひとりで舞台を務めることに誇りを感じていて、自分の演技ではなく、太った体型だけを観客は面白がってる、これじゃ、見せものだ・・・と悩む俳優には、「俺だって、こんなチビで・・・それをお客が笑うんだと思うときがあるけど、本当の芸は、観客が心の中で泣いているとき、笑わせることだと思う」となぐさめる。

すき焼き鍋をおごって、「ほら、食べろ、食べろ・・・」とどんどん相手の皿にすき焼きを、入れてあげたりする。

芸達者で、プライドが高くて、さびしがり屋でも、責任感があって、気難しいけれど、情に厚いみたいなね。

 舞台演出の牛島は、もう大忙し・・・今じゃ落ち目の自称、大物役者がごねれば、頭をさげ、踊り子たちが泣いてしまえば「泣いててもはい、舞台で笑って、笑ってよ!」と走り回り、あっちから怒られ、こっちに頭をさげ、板挟みの中で走りまわる。

でも、居酒屋で、「もう、嫌になるけど・・・・舞台の幕がこう、あがるでしょ?もう、胸がすぅ~~~っとしてね、やめられないって思うんだよ」といったことを話します。

 とうとう越路吹雪は結婚引退を決意して、『お輕勘平』が最後の舞台となる・・・と知ると、エノケンは、いろいろあってもやはり相手役は越路吹雪じゃないとイヤだ、とごねますが、本当は密かに好きなのかな・・・と思うけれど、そこは見せずに送り出すのです。

ここ、結構、感動的でセンチメンタルですね。

越路吹雪が、婚約者と一緒に外に出て、ホテルのエノケンの部屋を見上げると、さっと電気が消えてしまう、とか。

 無事に楽日を迎えた『お輕勘平』ですが、次の演目が「アフリカのロミオとジュリエット」っていう・・・ああ、これ観たいですよね。

舞台裏の人間模様も、楽しいけれど、舞台がまた、ゴージャスでコミカルで歌や踊り満載で面白くて、楽しいんですよ。

 人を楽しませる影の苦労と喜び・・・悲喜こもごもです。

自称、大物役者が大部屋に最初は不満で、とにかくごねますが、最後の最後になって「自分は上手い、自分はいい顔だと・・うぬぼれてばかりで芸を磨かなかった・・・どうか皆さん、芸を勉強してください」と言って去ります。

うぬぼれはダメだよ・・・・というのはマキノ監督の映画に、よく出てくるメッセージですが、うぬぼれ、といっても色々あるわけで、役者なんてうぬぼれ=自信がなければやっていけないし・・・という、最後の最後まで、あんこがしっぽの先までつまった鯛焼きのように、人情がつまった映画でした。

好きですね・・・こういう映画。

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