エリザベス:ゴールデン・エイジ

エリザベス:ゴールデン・エイジ

Elizabeth:The Golden Age

2008年3月12日 日比谷スカラ座にて

(2007年:イギリス=フランス:114分:監督 シェカール・カプール)

 正確に言うとこれは同監督、同主演による『エリザベス』の続編です。

わたしは『エリザベス』を観ていないのですが、この映画は独立した映画として十分、わかるし楽しめます。

16世紀の英国の女王、エリザベス一世。

この時代というか、ヨーロッパの歴史って、もう、ものすごく複雑というか・・・歴史というのはそういうものなのですが、この映画はある程度、その歴史=事実を知っている・・・という前提があります。

 わたしは、改めてこの時代の英国史を調べてみたのですが、まぁ、王位をめぐって大変な騒ぎです。

この映画では、エリザベス(ケイト・ブランシェット)の従姉妹にあたるのですが、スコットランドの女王、メアリ・スチュワート(サマンサ・モートン)が王位継承権を主張したことから、エリザベス女王により幽閉されている・・・という1587年から始まります。

 25歳で即位したエリザベス、このとき、34歳というわけですね。

壮大なロケ、美しい衣装、豪華な王室の生活・・・そんなものが、宣伝されているので、観客は女性がほとんどだったのですが、でもね、この映画は、34歳の女・・しかも、国のために独身を決心したエリザベスの部分もあるのですが、同時に、政治、戦争、暴動・・・権力と政治の映画でもあります。きわめて、男性的な要素が多い。

この当時、ヨーロッパで盛隆をきわめていたのは、スペインのフィリペ一世。スペイン無敵艦隊・・・と言われたころです。

 この映画がすごいのは、そんな「メロドラマ的要素」と「骨太の政治歴史要素」の見事な融合というか。

もう、政治の頂点ですからね、女王は女であっても、ただの女ではない。

女であっても、男の上に立つ・・・女と男の部分の融合のさせ方もうなるほど、上手い。不自然さが全くないのです。

 ケイト・ブランシェットのしゃべり方・・・腹の底から声を出すような、時には威圧的に、時には気弱に・・・その両面を本当に上手く出しています。

 歴史的には独身、といっても愛人はいたそうですが、この映画では、ウォルター・ローリー卿(クライブ・オーウェン)が、新大陸への費用を王室から出させようと、近づいてくる。

国のために独身・・・といっても、政治の世界では、結婚による国同士の結びつきというのも絶大な威力を持つ。

次々とエリザベスの夫候補があらわれて、いわゆるお見合い・・・なんかもしなければならないけれど、エリザベスが心惹かれるのは、冒険と航海、誰も見たことのない新大陸を求める、海の男・・・。

 しかし、特殊な立場上、好きだから、はい結婚にはならないのです。

エリザベスは、公の場ではいつも隙のないような完璧なドレスに髪型をしています。

豪華な衣装、かつら、装飾品だけれども、それは一種の鎧、なのですね。

しかし、そのかつらをとるとものすごく短い髪の、もう若くはない、年を感じる体だ、ということもわかっている。

疲れた顔に、短い髪、もう、豊かな・・・とはいえない身体・・・。

 あえて、自分の女官であるベスをローリー卿に近づけて・・・2人が恋に落ちるのを「観察する」女。

なんとも苦しく、つらく、そして、意地の悪いことをする。

 しかし、スペインは無敵艦隊を英国に向けてくる。恋とか言ってられないんですよね、当たり前だけれども。

自ら甲冑を着て、馬に乗り、スペイン艦隊を撃破する。これがアルマダの海戦と呼ばれるものです。

 もうひとり、幽閉されている女王、メアリ・スチュアートは、密かな陰謀が暴露されて、処刑される。

ケイト・ブランシェットもサマンサ・モートンも、「私、綺麗でしょう」という撮り方をしていません。

しかし、気品とか品格・・・といったものは2人、甲乙つけがたいものが。

堂々としているのです。どちらも。「私、女だからあ~」なんて甘えはない。「私は女王だ」と言い切る2人には、それぞれ自信と不安が混じっている。しかし、どちらも負けられない。

エリザベスの周り、敵だらけ、といってもいいくらい。

 

 しかし、エリザベス一世は、それをはねのけ「黄金時代」と呼ばれる英国の歴史を作り上げるのです。

 実に骨太でありながら、繊細、女でありながら同時に男の上に立つ、男の人を恋しいと思う気持と同時に持つ「女王の自覚」

相反するものを、流れるように融合させた・・・という点がこの映画のとても優れたところです。

撮影や衣装も見事だけれども、ただのキレイキレイな映画に終わらせず、かといって、政治、陰謀だけで終わらせず、両方の要素をきちんと整理整頓して、甘えたい気持を押し隠して、誰にも甘えない・・・エリザベスの気性というものが、そのまま、この映画の気性のような気もします。

時代ものは、やるなら、ここまで徹底してやって欲しい。

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