LOVE STORY

LOVE STORY

Love Story/愛情故事

2008年3月13日 シネマート六本木にて(アジア新星流 FOCUS FIRST CUTS)

(2006年:シンガポール:95分:監督 ケルヴィン・トン)

 おととし(2006年)の東京国際映画祭で上映された、アンディ・ラウによるFOCUS FILM の映画を6本上映してくれました。

香港だけでなく、アジアの新進気鋭の映画作家の作家性の高いものから、娯楽性の高いものまで幅広く、映画をくりだしてくるフォーカス・フィルムは注目です。

 シンガポールの映画、といってもいかにもこれがシンガポールです、という観光映画ではありません。

あくまでも、ひとりの作家の頭の中に広がる・・・恋愛・・・といったもの・・・それを4人の女の人をからめて、現実なのか、作家が書く物語の世界なのか・・・曖昧にして、まるでジグゾー・パズルをしているような感覚になる、ジグゾー映画とでもいいましょうか。

 この映画は作家が主人公ですから、本、そして図書館、文字、文章・・・といったものがクローズアップされます。

4人のうち、最初に出てくる女の子が良かったですね。

黒い覆面で口を隠していて、ずっと何かをつぶやいている・・・・それは、物語なのかどうかわからないけれど、舞台で演じられる「10冊の発禁本をすべて暗記して、それを娘に伝えた物語」・・・なのです。

黒い覆面の女の子が、つぶやいているのは、その「禁じられた物語」らしい・・・・。

しかし、作家との恋をして、自分の声を取り戻したと同時に、物語を失う・・・。

 そして、女性警官、図書館の司書、警察でであった派手な女性との関係を、どれも、「恋愛」とは呼べないような関係を・・・細切れにして出してくる。

 警官というのは「犯罪小説」、平凡な恋がしたいだけなのに・・・と地味な司書の女の子は「恋愛小説」、黒い覆面の女の子は「禁じられた物語」・・・・の象徴のように思えます。

図書館司書の女の子は、作家に「世界で一番読まれている物語は何か知っている?」と聞く。

「聖書かな」「一番読まれているのは、ラブ・レター・・・何度も読み、そして行間も読むのよ」と言う。

行間も読む物語・・・それはラブ・レターだ、とおとなしそうな女の子なのに、妙にそこは毅然と言い張る。

作家は、そんな話を聞いても、自分が書くのは、最後が悲劇で終わる、ありきたりの恋愛小説ばかり。

 しかし、最後の女の子は、「作家であること」「安直な二流の恋愛小説に甘んじること」を厳しく追及されて・・・・・自分の血で、自分の恋愛を物語にしろ・・・とこれは「恐怖小説」なのでしょう。

 自分の指先から流れる血で綴られる、恋愛小説。本当の恋愛とは何か・・・作家にも実はわかっていない。

とにかく売れる本を書け・・・と迫る編集者もいれば、ファンです、と近づいてきながら、「あなたの書く物語は誰の人生に何の影響をもたらさない」かどうか・・・という挑戦的な賭けをしてくる不気味な男もいる。

 翻弄されるようでいて、意外と作家は冷静ですね。ホラー映画ともとれるし、恋愛映画ともとれるし、実験的な映像体験とも呼べる・・・そんな映画です。ひとことで、表わされるジャンルの映画ではありません。

物語(作り話)の虚構というものを、映画という映像感覚で描いてみせた・・・そんな気もするのです。 

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更夜飯店

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