胡同(フートン)の理髪師

胡同(フートン)の理髪師

剃頭匠/The Old Barber

2008年4月3日 岩波ホールにて

(2006年:中国:105分:監督 ハスチョロー)

 これは予告編では、ドキュメンタリーだと思っていました。

でも、これは「世界最年長のアマチュア俳優」チン・クイさん、93歳主演の「ドラマ」なんであります。

チンさんは映画の中でも、チンさんですが、いまだ現役の理髪師。

オリンピック景気で、取り壊しが決まっている胡同にひとりぐらし。

店を持っていたこともあるけれど、今は、近所の人たちを訪問理髪しています。

そのほとんどが、寝たきりで外に出られない老人たちです。

 もう、チンさん、表情を変えないというか、いつもオスマシ顔して平然としているのですね。

93歳とはいえ、そのカミソリさばきを最初、アップで丁寧に映します。

昔通りに、カミソリを研いで、蒸しタオルで顔を温めて、耳たぶまで丁寧に剃る・・・そして、終わったときに「あ~~~気持いい」で映画は始まります。

 最近の中国映画によくある古い中国、新しい中国・・・の対比映画でもあるのですが、わたしはこれはもう、よくできた老人映画だと思いますね。

 チンさんのお得意さんが色々出てくるけれど、どんどん亡くなってしまう。

それでも、チンさんは、淡々として、表情を変えない。

自分の年齢のことを思い、生活力がなくて情けない離れて住んでいる息子には、全く頼る気がない。

自分のことは自分できちんとやり、いつも髪に櫛をいれて身綺麗にしています。

「人間、死ぬ時もこざっぱりきれいに逝かないと」

 昔は、大政治家や、有名な俳優の髪も切った・・・とありますが、今は三輪車で、こつこつとまわっています。

頭の体操として、近所の人と麻雀をやります。

あくまでも頭の体操だから・・・・と言いつつも、夜、ノートに「何月何日 3元」などとちゃっかり儲けたお金を書いている。

でも、金持で高級アパートに住む息子に引き取られた、友人のところに行って、「100元か、200元か?」と金を渡されそうになっても、いらない・・・とスタスタ帰ってきてしまう。

 お金を大事にしているけれども、身分不相応な金は拒否する。

 チンさんは、民生委員の人から、新しい身分証明書を作るから写真を撮ってくださいね・・・と言われ、写真に興味を示す。

(できました・・・・という身分証明書は有効期間20年。それを、また、まじまじと見つめるチンさんです)

いつ自分が、死んでもおかしくない・・・そんな思いから、昔の写真を取り出してみたり、テープに自分録を吹き込んでみたり・・・しますが行きつけのモツ煮込み屋の息子が、店を継がず、大学で絵を習っているとしると、肖像画を描いてもらうのです。

 長髪で、いかにも美大生な若者に、肖像画を描いてもらうときのますますオスマシした顔がいいですね。

若者も「こんな素晴らしいモデルいませんよ。大学でモデルの仕事しませんか?」などと気軽な口のきき方をする。

できた絵を見て、「あまり似てないな・・・」と言うのですが、「いやいや、チンさんの内面を描いたのです」と言われ、「ふ~む。絵の道も深いものだな」とご満悦な様子が微笑ましい。

しかも、絵の代金を渡そうとすると、若者がモデルになってくれてどうもありがとうございます、とお金を渡すのです。

この映画、お金を渡す、もらうシーンが非常に多いんですね。それも大金ではなく、普通の生活レベルのお金のやりとり。

 チンさんは夜9時に寝て、朝6時に起きる・・・という大変、規則正しい生活をしているのですが、古い時計がいつも5分遅れる。

時計屋に持っていくと、「5分すすめたらいいのではないですか?」と言われ、きちんと寝る前に5分進めるという、基調面さ。

 なにかあったときのために、自分の遺影と死装束を用意するようになったチンさんですが、あれ、朝8時になっても9時になっても目覚めない・・・まさか????し~~~~~んとした部屋。

このタイミングいいですね。あれだけ周りの人の死を描いてきて・・・・もしや?

でも、絶妙なタイミングで、チンさんは「ぅぅぅ~~ん、あれ、寝坊した・・・」とオスマシ顔。そして今日も理髪師として自転車に乗るのでした。

 変わるもの、変わらないもの・・・そんな中で、変わらないを続けることを、オスマシ顔で描いてしまったところがとても素晴らしいと思うんですよね。大変だぁ~~~とか、感動したぁ~~~とか一切出さずにオスマシ顔。

世の中、気長にわたっていくにはオスマシ顔、なんだなぁ、と思います。

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