アイム・ノット・ゼア
I'm not there
2008年5月22日 シネカノン有楽町二丁目にて
(2007年:アメリカ:132分:監督 トッド・ヘインズ)
突然ですが、活け花の話をします。
わたしが習っていた流派では、活け花は4段階・・・でした。
「基本」「展開」「分解」「再構成」です。
きちんと型の決まった基本の形があって、それを様々な形で、練習・・展開させていく。
その次は、その基本を一回、壊してしまう。そして、ここが最後で永遠に終わることのない「自由型」・・・つまり「自分だけの(他の人が真似できない)活け花」をめざすのです。
この映画はまさに、映画の「基本」「展開」「分解」そして「再構成」を見事にやってのけています。
花材といえるのは「ボブ・ディラン」という人です。
そして、映画の映像は時にモノクロ、時に美しいカラーという映画の基本を守っている。
そして、6人の役者がそれぞれの「ボブ・ディラン」を演じるのを、時間軸も時系列でもなく展開させていく。
そして、どの6人も終わりがあり、始まりがあり・・・という「分解」・・・人格分析といってもいいのかもしれないけれど・・・をしてみせる。
そして、最後の最後に浮かびあがってくるのは、ひとりのボブ・ディランという再構成された「ひとりのミュージシャン、詩人、人気者、放浪者・・・」という「様々な面をみせるひとりのひと」
もうね、わたしは、ビートルズとかボブ・ディランの世代ではないし、あまり曲も知らないので、熱烈なディラン好きは、曲がどうとか、似てるとか似てないとか、熱烈に語りたくなるような、上手い映画でもあるのですが、映画として、とても興味深いのですね。
わざとドキュメンタリー風に関係者のインタビュー(これも役者が演じている)してみたり、黒人の子供が少年時代のディランであったり、60年代のスター時代は、女優のケイト・ブランシェットが演じていたり、ものすごく凝ったことをやってみせる映画です。
トッド・ヘインズ監督、くせもの。
『ベルベット・ゴールドマイン』『エデンより彼方に』・・・の次はコレ、ですか?
6人の役者には、ボブ・ディランに関する資料をたくさん渡した・・・という溝口健二監督みたいなことしたらしいですが、雰囲気がよかったのはケイト・ブランシェットであり、本人に一番そっくりに似せているのは、クリスチャン・ベイルだそうです。
ファンによるファンのためのファン映画の企画はたくさんあっても、ボブ・ディランは拒絶していたらしいけれど、ここまで凝って「再構成」してみせればさすがにご本人も納得でしょう。
活け花の展覧会に行くと、全部ではないけれど、時々、ドキっとするような個性と美しさと技術をもった活け花に出会います。
トッド・ヘインズ監督、ジャパニーズ・フラワー・アレンジメント・・・習ったら、とってもいい花を活けると思うけどなぁ。
*****追記*****
私はこの映画は活け花に例えているのですが、この頃は活け花も一生懸命やっていた時期ですね。実は私の先生はこの後、若くして亡くなり、今は活け花の稽古は全くしていません。
なつかしい。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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