休暇

休暇

2008年6月11日 有楽町スバル座にて

(2007年:日本:115分:監督 門井肇)

 死刑について、目をそらさずきちんと対峙している映画。

なので、気持いい、楽しい映画ではありません。

しかし、この映画が残すものは、重くても、それは実に身にしみる「人間が生きること」への問いかけです。

 死刑と簡単に言うけれど、一体どういうことをするのか・・・それをかつては、大島渚監督は『絞首刑』という映画で「説明」していて、若かったわたしはとてもショックを受けた覚えがあります。

 人が人を死でもって裁く・・・それがいいことなのか、悪いことなのか・・・という映画ではありません。

死でもって、得たある刑務所の刑務官の「休暇」

 平井透(小林薫)は50代の独身の刑務官。真面目で地味な人柄か、お見合いをやっとして子供を連れているけれど、ある女性と結婚が決まる。

しかし、結婚式のあとの休暇がとれない・・・・そんなときに、死刑囚、金田真一(西島秀俊)の死刑の執行が決定され、その体を支える「支え役」になったものには一週間の休暇が与えられる・・・そのあまりにもつらい仕事への恩賞として・・・。

 しかし、周りの刑務官たちは、戸惑いを隠せない。

そんな・・・結婚の新婚旅行のためにそんな「仕事」をしなくてもいいのに・・・・・・・・。

死刑の執行の前日に執り行われることになった披露宴も沈んだものに。

 まだ新人の刑務官(柏原収支)が、なにかと質問することで、どういうことなのか、刑の執行がとりおこなわれるということはどういうことなのか、聞き役となっています。

 ただベテランの年配の刑務官にあるのは「疲れ」それだけです。

疲れは、刑務官だけでなく、死刑を待つだけの死刑囚も、疲労しきっている。

 そんな種類の違う「疲労感」を小林薫と西島秀俊が見事に演じていました。

そして、仕事と割り切れない疲労感、生きることに絶望した疲労感・・・この映画は疲労感の映画です。

 映画は、刑務所で刑が執行されるまで、とあまりなついてくれない連れ子と一緒に、休暇で旅行に行く平井が交互に描かれます。

本人には知らされないけれど、刑務官はあくまで「仕事」として、死に対峙する。

また、死刑囚の金田は、嘆願書にも熱心ではなく、生きる希望なんて失っているのに、廊下を歩く足音がひとりではなく、たくさんの人だ、と気がついたとたん、刑の執行を知ったときの顔。

また、普段は無気力ともいえるおとなしい金田がだんだん精神的に追い詰められていく様子なども丁寧に撮っています。

 死刑の前に、自分の死を確信したときの金田の顔。

無表情だったのに、涙がぽたりぽたりぽたり・・・・・・・後悔であり、恐怖であり・・・その恐怖感を見せる涙がスクリーンいっぱいのアップで映される。このアップは、迫力ありますし、ここまで恐怖と怯えの表情を演じきった西島秀俊は迫力です。

 ひとりの死でもって得た休暇。

疲労感はますます濃くなり、楽しい旅行になるはずもない。

妻(大塚寧々)はそんな夫の苦しみを、そっと見守っている。

しかし、どんなことがあっても、ひとつの幸せを得たささやかなひとりの男。

悪いことをしたわけではないのに、罰せられたわけではないのに・・・・それでも、憂鬱感と疲労でいっぱいになりながらも、小さな小さな幸せを得る・・・そんな大人の苦渋を描いています。

 人間なんて、白か黒か、ではなく無数の灰色で出来上がっている・・・そんなことを考えさせられる映画でした。


*****追記*******

2018年の今では、テレビでCMで認知度が高かった西島秀俊さんですけれど、この映画とか『帰郷』など映画中心に活躍していた頃が好きです。

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