ぐるりのこと。
2008年6月28日 シネスイッチ銀座にて
(2007年:日本:140分:監督 橋口亮輔
前作『ハッシュ!』から6年ぶりに映画を作った橋口監督は、その間、鬱に悩んだのだそうです。
その時の気持や経験から得たことを、ある夫婦(木村多江とリリー・フランキー)に焦点をあてて、人間の持つ暖かさだけでなく、自己中心的で、わがままで、時に無神経で、やるせない、そんな普通の人々を描いています。
昔の映画でロバート・レッドフォードが監督したまさに『普通の人々』という映画があったのですが、その映画を思い出しました。
兄(長男)を失ったことから、一家が崩れていく、そしてその修復を描いた映画でしたが、この映画では、夫婦の間で問題になるのは子供のことです。
深い喪失感から、うつ病になっていく妻、翔子。
靴屋から法廷画家になって、様々な実在の事件の裁判を目にすることになる夫のカナオ。
カナオの家族は出てこないけれど、翔子の母や兄夫婦は、時にとても無神経でわがままで、自分勝手。
多分、翔子という女性は、家族の抑圧が子供のころからあったのではないか、と思います。
だからか、翔子は、時に夫のカナオに完璧を求めてしまう。自分が真面目できちんとしているから、とそれを夫に強いてしまうところがあります。
それを、時には受け流し、時には受け止める・・・一見、不甲斐ないような男、カナオ。
2人は、なんだかんだいって2人で、苦難を乗り越える。そして、いつも抱き合って、ではなくて、時々手を握りながら、手探りで2人の着地点を見出すまで、10年間。
普通の生活を続けていくことは、時にしんどい。
めんどうくさいことがあって、避けられないとき、避けられない人がいる。
密かに傷ついて、苦しんでいる人がいる。
側にいても何もできない人もいる。何もしようとしない人もいる。わかるひともわからないひともいる。
そんなことを繊細かつ、神経質の狭間でバランスとりながら、この映画は進んでいきます。
ある普通の夫婦とそのまわり、ぐるりのこと。
劇的なことはなくても、生きていく、生き続けていくことのしんどさと安心を静かに描いた映画です。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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