緑の光線

緑の光線

La Rayon Vert/Summer

2008年9月8日 渋谷 ユーロスペースにて(ロメールの季節)

(1985年:フランス:98分:監督 エリック・ロメール)

1986年ベネチア国際映画祭 金獅子賞、国際批評家賞受賞

 エリック・ロメール監督の映画には、特別な人は出てきません。

ヒーローもヒロインも、すごく幸せな人もすごく不幸な人も・・・善人も悪人も、極端な人は出てこないのです。

ごく普通の人々。

普通に働いて、家族がいて、恋人がいて、友達がいて、子供がいて・・・といった、いわゆる小市民しかでてこないのではないかと思います。

 この映画は、16ミリで撮影されていて、スタッフも3人しかいなかったという自主映画のような映画なのに、なんてきれいで堂々としているのでしょう。

映画の質としてはすばらしく高い映画です。

 主人公は、パリで会社の秘書の仕事をしている、おそらく20代後半の女の人、デルフィーヌ(マリー・リヴィエール)

これから、夏のバカンス・・・その時、一緒に旅行に行こうとしていた友人が、ドタキャン。

 さて、ここから映画は始まります。

デルフィーヌは、どちらかというとすらりとした美人でしょう(とわたしには見える)

着ている服も、ラフであっても、とてもおしゃれで、センスもいい。

 でも、なんとも自分論めじろ押しなんですね。

いわく、ひとりで旅行なんていやだ、団体旅行はいやだ、家族と過ごすのもいやだ・・・・・長いバカンスをどう過ごしたらいいの?

どうも、デルフィーヌは、過去の失恋をひきずっていて、恋人もいないらしいし、欲しいと思っても、つい、身がまえてしまって恋人ができない。

友人たちとの会話では、とにかく、バカンスでスペインとか行けば、そこで恋人を見つければいいじゃないの。

とにかく、とにかく、とにかく・・・・・・・・・とにかくづめで、デルフィーヌは、一生懸命、自分の言い分を言いたてるけれど、周りの友人たちはもっと、弁がたち・・・・ついには、しくしくと泣き出す始末。

 とりあえず、友人の実家に行こうよ・・・となりますが、なんとなく気を使われてしまい、居心地悪くパリに逆戻り。

山に行こうとすれば、一日で飽きてパリに逆戻り。

たまたま、海外に出かける友人が海辺の家を夏の間貸してくれるから・・・・とひとりで行きますが・・・・

 デルフィーヌは、どうだろう、見方によってはかなり気難しい性格です。

友人の実家で、食事を出されたとき、「さあ、お肉料理!!!!」と出されると、「わたしは肉は食べない」・・・・・じゃ、何故、菜食主義者なのか、といった話をえんえんとするところが出てきますが、かなり、デルフィーヌはめんどくさい理屈をこねまくって、トマトしか食べない。

なんというか、協調性もあるんだろうけど、それには無理があって、本音になるとかなり「私は、私は」と自分論めじろおし。

気軽な感じがないんですね。妥協とかいい加減は嫌いな、まじめというか、頑固というか。

そのくせ、一生懸命、自分で、自分は協調性はあるわ・・・と言い張れば、言い張るほど空回り、周りの人はしらけるか、気を使うことになる。

 なんか、共感できない人もいるだろうけれど、わたしは、なんとなく、うんうんと思ってしまう。

デルフィーヌは、自分論を押し通すかというと、全然通じないのよね・・・・ということもよくわかっていて、自己嫌悪に陥る。

もう、自分論、落ち込む、自分論、落ち込む・・・・の繰り返し。

この「落ち込む」ってところが、わたしは共感を持つんですね。

頭でわかってても、どうしてもなんとなく人と上手くつきあっていけない。気軽になれない。身構えてしまう。でも反対されるのは嫌だ。

 さて、海辺の友人の部屋を借りて、海水浴をしているとき、スウェーデンから一人旅をエンジョイしている開放的な女の子と知り合う。

その女の子は、旅先で、男をひっかけて遊んでまた、別の所に行って、男ひっかけるのよ、とケロンとしている。

すぐに男の人が近づいてくるとき、スウェーデンの女の子と男の人の、デルフィーヌと対象的なぽんぽんと軽口たたきあって、気軽な気楽な会話を見せるところが上手いと思うんですね。

ついていけなくて黙ってしまい、席を立ってしまうデルフィーヌ。もし、わたしだったら、絶対デルフィーヌになるでしょうね。

 タイトルの緑の光線というのは、海辺で聞く話で、晴れた日に太陽が海に沈むその一瞬に緑の光が見えることがある。

滅多に見えないけれど、それを見た人は幸せになる、という。

 デルフィーヌには、その一瞬の緑の光が見えない。

でもやはりパリに帰ろう・・・・・と駅に行った時出会った男性。

ここで、また、気難しくしてしまうかな・・・・と思うとデルフィーヌは、ちょっとだけ心を開く。ほっとしますね。

そして、夕陽を見よう・・・・と海辺に行く。そしてやっと見える緑の光線。ほんの一瞬、さっと緑の線が光る、そしてすぐに消えていく。

それを見るデルフィーヌはこれからどうするのだろう・・・・映画はそこで終わります。

 めでたく恋愛成就しました、というより、ぽつ、とラストに光を置く。そんな手法が心憎いほど効果的。

なかなか、人や男の人に気安くなれない、という自己嫌悪の嵐に悩みながらも見える、ほんのちょっとのひかり。

そんなものだろうと思うのです、シアワセとかって。

 ちなみに、映画館のスクリーンでは緑の光線はちゃんと見えるのですが、ビデオやDVDでは画面が小さくて見えないそうです。

それくらいこの光は繊細で、まさにこの映画の繊細さをあらわしているようです。

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