東南角部屋二階の女

東南角部屋二階の女

2008年10月7日 渋谷 ユーロスペースにて

(2008年:日本:104分:監督 池脇千尋)

 この映画は、とても静かな映画です。

最初は全く動かないような感じなのですが、じわじわと動き出す・・・そんなテンポと空気がとてもいい映画です。

 まず、3人の若者(というか社会人の若い人)が出てきます。

野上(西島秀俊)は、亡き父が残した借金を抱えたサラリーマン。祖父(高橋昌也)の家の土地・・・それを売れば、自分のせいではない、苦しい借金は、いっぺんに返済できる・・・・祖父の家には、近くの居酒屋の女将、藤子(香川京子)がオーナーである古いアパートがあり、野上はそこに住んでいる。

 とにかくアパートを含めた家の土地を売れば・・・・・・・・・・

そんなとき、野上は、ネットのお見合いサイトで、涼子と出会う。

涼子は、愛知から上京して、撮影用の料理を作るフリーの仕事をしているが、なんとも上手くいかない。

よくありがちな・・・収入のあるサラリーマンと結婚して・・・・って下心が。

このお見合いの時、涼子は、成人式の時の振りそでを着てくるのですが、なんともぎこちないのが、面白かったですね。

しまいには帯がほどけてしまい、野上と会ったものの・・・・野上が帯を持って後ろを歩いている。

 この映画で着物というのが出てくるのですが、この振袖がいいですね。

野上がぽつりと・・・・・「お着物ですか・・・」と今時の男の人が「着物」と言わず「お着物」というところになんとなく、野上の育ちの良さがちらりと。

監督は若い女性監督ですが、脚本も女性です。

鋭いな~~~~。

 さて、野上の会社の後輩の三崎(加瀬亮)は、たまたまガールフレンドとデートしているときに、野上と涼子を見てしまう。

三崎は、なんとも理不尽なことだらけの仕事に嫌気がさしてきていて、ガールフレンドとも倦怠気味。

 そんなとき、野上は突然会社を辞める。家を売って、借金返済して再出発・・・・そんなつもりなのかもしれないけれど、何も言わない。

それにつられるように、三崎も、俺もや~めた・・・・と会社を辞める。

一人暮らしが金銭的に苦しくなった涼子。更新料が払えない・・・・・困ったときに出会った、野上と三崎。

涼子は、「安定した収入のあるサラリーマン」を望んでいたのに、え?会社辞めちゃったの?それはないじゃない!

野上は野上で、「君は、一軒家に住んでいるって・・・・違ったのか・・・・?」

結局、お互い、下心がありあり・・・・でも、どうしようもない。

 野上の古いアパートが、空き家で、藤子からいい条件を出された三崎と涼子は、そのアパートに引っ越してくる。

困るのは野上です。

売ろうとしている、とりこわそうと考えているアパートに住人が増えては困るのです。

祖父をなんとか説得しようとしますが、何を言っても、沈黙しかない祖父。

 さて、野上、三崎、涼子の「逃げてしまった」3人と、対照的に出てくるのが、何も言わない祖父、藤子、そして居酒屋の常連客、畳屋の塩見三省。

この映画は、若い人VS人生の先輩・・・・という流れになってきます。

 3人は、それぞれ不安を抱えたまま、アパートで過ごすことになる。

でも、二階の東南角部屋は、誰にも貸さずに開かずの間になっています。さて、それは何故?

 社会人になった以上、生活していく収入だとか、お金のことは常にまとわりつきます。

そこから目をそらさないところがとてもいいですね。

おだやかな野上が、突然、叫ぶ。

「自分の給料から、借金を返したことがあるか?借金を抱えたことがあるか?」

 金の重みと人の痛みというものを実によく描いた映画で、かといって貧乏くさくありません。

若い3人が、冬の庭で、バトミントンをする。涼子は上手いけれど、男2人はへたくそ。コツーン、コツーン・・・というバトミントンの音。

不安を抱えながらも、庭でするのがバトミントンだというのも、とてもいい雰囲気でした。

映画は、じっくりとこのアパートのことを知るようになり、だんだん、それぞれの道を見つけていく・・・・のでしょうか。

映画はそこまでは描きませんが、あるひとつの答えを出します。

 静かなやりとりの中のシビアな現実感。そんなものの融合のさせ方がとても上手いと思います。

役者さんたちも、さりげない雰囲気の中でそれぞれの思いを見せていました。

人生、そうそうまんざら捨てたものではない・・・・・いろいろな人生あり・・・・そんな救いの気持が終わった後しみじみとしました。

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