萌の朱雀

萌の朱雀

2008年10月13日 DVD

(1997年:日本:95分:監督 河瀬直美)

1997年カンヌ国際映画祭カメラドール賞受賞

 河瀬監督の映画は、静謐で緑に満ち溢れています。

それが一番好きなところかもしれません。そして演技しているとは思えないドキュメンタリーを観ているような感覚に陥る雰囲気の出し方が独特。

 しかし、この映画が描くのは、山奥の村の過疎、ということです。

奈良県南部の山奥のある村。

鉄道がなくて、車か、バスか・・・そんな山の高いところにある村は農業が中心。

ある一家の朝食を作る風景からしてもう、これみよがしなもののない、日常生活の出し方。

 しかし、一家の父(國村隼)は、ある日突然、失踪する。

家族に何もいわずに・・・。

残された家族の惑いを丁寧に拾っていきます。

決して、大袈裟なことはおこらない。

父の失踪というのは、大変なことですが、これは、若い人がどんどん村から離れてしまう・・・そんな過疎の問題のメタファーだと思います。

いなくなってしまう人々。残された人々。

 河瀬監督は『沙羅双樹』でも、突然、神隠しにあったように消えてしまった双子の兄・・・という「いない人」の存在をかかえる人々を描きましたが、普段、町を歩いていて、電車に乗っていて・・・たくさんの人に囲まれていることに無意識に慣れきってしまうと「ひとりの人間の存在の大きさ」を忘れてしまう。もちろん、自分、という人間の存在すら、見失ってしまう。

河瀬監督はそういうところから目をそらしません。

 中学生の女の子(尾野真千子)は、子供のころから親しくしていた、年の近い男の子に淡い恋心を抱くようになる。

でも、それは、相手にされないけれど、悲しみ・・・というより、あきらめに近い顔をするのが痛々しいような、初々しいような。

瑞々しい感覚を、丁寧に映像に映し出す・・・悲しみ、あきらめ、さびしさ・・・・そんなものをこの映画は静かに追っていく。

 家は大きくて、縁側から見えるのは奈良の山の美しい緑の風景。

いつも緑の木々の風が吹いているような・・・・そんな空気感がとてもいい映画。

できれば、これは映画館の大きなスクリーンと静かな音を聞く・・・といういい音響で観たかった映画です。

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