サバイバル・ソング

サバイバル・ソング

Survival Song/小李子

2008年11月23日 有楽町朝日ホールにて(第9回東京フィルメックス)

(2008年:中国:94分:監督 ユー・グァンイー)

コンペティション作品

審査員特別賞受賞

 去年の東京フィルメックスで『さいごの木こりたち』という映画で、コンペに出品したユー・グァンイー監督の「その後」

冬、森林伐採の木こりたちが、伐採禁止の最後の冬を追ったものでしたが、職を失った人々はどうなったのか?

 ユー・グァンイー監督の特徴は、その対象への異様なほどの近づき方だと思います。

決して綺麗事を、作り上げるのではなく、ドキュメンタリー映画作家として、とにかく、カメラが入りこんで、入りこんで・・・というカメラの入り込み方が尋常ではなく、そのスタイルがものすごく潔くて、勇気があって好きなんです。

 今回は、同じく、監督の生まれ故郷である中国東北部のある冬です。

もと木こりだった人々はどんどん村から離れていってしまう。しかも近くにダムができるのでますます、人々は村を去って行ってしまう。

 そんな中で、ハンという男の人は冬の間は家族を町に残して、密猟をしています。

でも、この映画の中心となるのはハンという人ではありません。

ハンに雇われていた、小作人といいますか、李小子という中年の独身男です。

 この李小子と言う人・・・・ハンの牛をまかされても、ふらふらと逃げ出してしまい、牛を売り払って・・・でも、もう、どうしようもなくなってまたハンの所へ戻ってきたところから始まります。

ハンからしたら、また住処から、食事から・・・世話する理由はないんです。

 ぶうぶう言いながらも、ハンは、李小子をまた雇う。

はっきり言って李小子という人は、なまけもの。

言われなければ動かない・・・しぶしぶという感じでいる。

ハンやその奥さんとも上手くいかない。

電気も通らない、夜はろうそくだけの山奥の生活。

その厳しいサバイバル生活がうつしだされていきます。

 しかし、厳しい中、どうしようもない李小子は、歌って踊るのが大好き。

♪ディスコッ、ディスコッ♪と、歌いながら踊る姿。

しかもそれは夜のろうそくのベッドのビニール越しの踊る姿。

監督いわく、李小子にはいつでも歌がある。今でも、耳元で李小子が歌う歌が聞こえるようだ・・・とコメントしています。

 『阿Q正伝』の阿Qのような李小子。

なまけもので、お調子もので、ハンの奥さんのトイレをのぞいたりして・・・もうもうしょうがないなぁ~~な人ですが、監督はあくまでも李小子をクローズアップします。

愚か、とばっさりひとことで切られてしまうような人物に興味を持ち、密着する。真実を記録したい、それはドキュメンタリー監督として全く正しい考え方だと思います。

 でもハンは密猟が発覚して逃亡、李小子は町の工事現場で働くことになります。

狭い寮のようなところで、夜、相変わらず、踊って歌う李小子。

その姿は、とても生きる力に満ちていて、なぜか、至福感すら漂います。

どんなにつらくても、歌って踊る・・・そんな力が、とても生きるってことを雄弁に語っていると思います。

 ひと冬、カメラを持って山に入り、一本34分のフィルムを70ロール使った中から選んだ、94分。

もう、根性が違う、根性が。

この映画が、審査員特別賞を受賞したことをとてもうれしくおもいます。 

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