武士の家計簿

武士の家計簿

2010年12月19日 TOHOシネマズ市川コルトンプラザにて

(2010年:日本:129分:監督 森田芳光)

 この映画を観ようと思ったのは、おお、久しぶりに森田芳光監督だった・・・からです。

前に観た映画は『間宮兄弟』か『サウスバウンド』だったかもしれません。

 1980年代に目立った若手監督、といえばわたしは、森田監督ですね。

『の・ようなもの』から始まって(初監督作品『ライブイン茅ヶ崎』は未見)、『家族ゲーム』『ときめきに死す』『それから』など次々に、目新しい映画を作る監督だなぁ、と追っかけていたような気がします。

印象に残っている映画は、『家族ゲーム』

普通なんだけれど、どうも、なんとなくおかしいある一家に、家庭教師という「闖入者」がやってくる・・・その家庭教師が、松田優作でした。

(これは映画パンフレットの仕事をしている人から聞いたのですが、後に作った映画『HAL(ハル)』のパンフレットはものすごく貴重で、持っていて売ったらプレミアがついてるよ、と言われました)

 森田監督は、これが!という特徴がないといえばありません。

ですが、超大作や特撮などは撮らず、家族を描くといった「市民的な映画」が多いのかなぁ、と思いますが、『失楽園』や『黒い家』、バカヤロー・シリーズとかですね・・・人間の機微を描く映画が多いような気がします。

 この映画は、幕末近い江戸時代、加賀藩の下級武士のある一家の3代にわたる物語です。

武士、といっても、今で言う経理、お金の管理をする御用算者という役職があり、猪山家は代々、刀ではなく、そろばんの家系です。

武士を描くとはいえ、これはある家族の映画です。

 信之(祖父)、後継ぎが直之(堺雅人)

子供のころから算術、そろばんが得意で、御用算者として大変、優秀です。

しかし、優秀ならばそれでいいか、というと、上の賄賂など「見て見ぬふり」をしなければならないのも事実。その帳尻をあわせるのも御用算者の務め。

直之は、正義感が強く、そういう「見て見ぬふり」ができない。清濁あわせ飲むということができないのです。

まぁ、こういう人は、清く正しく・・・のかわりに、あこぎな出世は無理でしょう・・・

 下級武士は、そんなに金持ではない・・・しかし、武士として体面は保たなければならないので、借金をしてでも、出費しますが・・・直之が妻(仲間由紀恵)をめとって、家計を調べると借金だらけの火の車・・・

そこで、家計簿(この時代は「入払帳」)をつけて、家にある家財道具は一切売って、借金の返済方法を変え・・・節約暮らしが始まります。

 いろいろとドラマチックな事件やエピソードは、出てくるのですが、あえて、あっさり、あっさり・・・と飛ばしているような気がしました。

息子ができて、4歳から、そろばん、書道、学問など教えますが、まず、家の家計簿を一切まかせる・・・というやり方をとります。

武士の子供だから・・・という見栄はなく、何をどう買ったらいいのか・・無駄はないのか・・子供だから間違いをするけれど、普段穏やかな直之は、そこらへんは厳しく情け容赦ない。

 この映画は、孫にあたる成之のナレーションで進みますが、父のそろばん英才教育もナレーションで「父との戦いが始まった」とだけで、さらり、としているし、子供ながらに、なんでここまで・・・という反抗も、あっさり。

 節約生活も両親、祖母、妻・・・あまり葛藤は描かれず、あっさりしています。

ごてごて、ぎすぎす描きすぎても、お金のことだから、生々しくなってしまうのを避けているのかもしれない、とも思いました。

お金の世界はそうそう、甘いものではないのですが、そこらへんも巧くあっさり。

 しかし、世の中は、江戸から明治へ・・・・孫の成之は、大村益次郎にその経理能力をみこまれて、出世します。

経理というのは、縁の下の力持ちでありますが、欠かせないものでもあります。

政治にしろ、一家の家計にしろ、金がないと生きていけない。でも、なんとなく金のことを言うと「ケチ」「吝嗇」などといい風には言われません。

だから、まぁ、映画や小説やテレビは、「愛」や「夢」を語りたがるのですが、わたしからしたら、安直な「愛」や「夢」ほどなまぐさいものはない。

いっそのこと、サッパリ、とお金、せつや~~~く!と言ってくれた方が、ははは、そうだねぇ・・・というトシになってしまいました!

まぁ、ここまでお金のことを描いた映画もめずらしいというか、この加賀藩の下級武士の「家計簿」は実在していてそこから、当時の生活などを知る、重要な資料となったそうです。

 たまたまですが、この映画を観た日は、給料日前で、ああ、もうもう、クレジット払いで買ったツケが来るのよね・・・と頭悩ませているところへ、、、映画で

父が幼い息子に「どうしたら、赤字を減らせるか」聞きます。

「・・・来月の分を使います」

「それでは、次の月が苦しかろう」

「・・・再来月から、使います・・・」

「それを借金と言うのだ」

・・・・・なんてやりとり聞くと、ああああ~とか身にしみてしまうわけです。

あっさり・・・と書いてしまいましたが、観ていて観客の負担にならない配慮を、ここで感じました!わたしはっ!

 (しかし、残念だったのは、後で知ったのですが、森田芳光監督の『家族ゲーム』で主役デビューした宮川一郎太くんがでていたのに気がつかなかったことです。もう、いいおじさんだよねぇ、、、わたしと同年代ですからね・・・年月の経つのを感じました。あ、関係ないですね、すみません)

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