人生、ブラボー
STARBUCK
2014年3月13日 シネスィッチ銀座にて
(2011年:カナダ:110分:監督、脚本 ケン・スコット)
老眼になって映画がつらくなってしまったのですが、急遽、事情があって何の予備知識もなく、時間が丁度いいからと飛び込んだ映画。
結果オーライです。時間も110分だし、コメディタッチで、テンポよく、笑ったり、涙を流してしまったり、あっという間でした。
カナダの精肉店で一族で働くダヴィッドは、42歳。仕事もいいかげん、生活もいいかげん、しかもツケが回って8万ドルの借金があり、借金取りにおびえながら
その日暮らしをしている独身男。
ダヴィッドは20年くらい前に、金が欲しくて、「病院で精子提供」をしてお金を稼いでいたことがありました。
そして20年経ち・・・・なんとその「遺伝子的子どもたち」が「実の父親の身元開示」の訴訟を起こしました。
ダヴィッドは実は、533人の子どもの「遺伝子的父」で、その内、訴訟を起こしたのは142人。
ダヴィッドはもちろん身元は秘密厳守でただ、「STARBUCK」という匿名で精子提供をしていました。(この匿名が映画の原題)
丁度、そのとき、恋人のヴァレリーが妊娠した、と告げますが、「あんたみたいな男に父親にはなってもらわない。ひとりで育てる!」とけんもほろろ。
ヴァレリーが、婦警だというのも皮肉です。
ダヴィッドは、なんとか借金返済しようと、ひそかに「温室で大麻栽培」なんて始めちゃったのだ。
頼りになるのは20年来の友人の弁護士。子どもが4人もいて何故かいつも育児している。名前も出ないし、その奥さんも出てこないけれど、
この弁護士が太ってぽちゃぽちゃしているのですが、実にまめまめしく育児をしている。
「子どもを持ったら、自分の時間なんてなくなるぞ」といいつつも、夜は眠れないとだっこしてあげて、子どもたちが夜中「砂場で寝ちゃダメ」と
子どもに追われている。(半分眠った子どもたちが、ふらふらと砂場にぱたん、と寝るところが妙に可笑しい)
しかし、弁護士はコネを使って、今20歳になった「遺伝子的子どもたち」のファイルを渡す。おそるおそる、読んでみると・・・・
なんと有名サッカー選手になっているじゃないか!!!
そこから、「遺伝子的子どもたちの今」を逆追跡することになるダヴィッド。そして、142人の子どもたちが、実に様々な人生をスタートさせている
ことに驚くのです。いいことばかりじゃない。ヘロイン中毒の女の子、先天性の病気になってしまった男の子、路上でギター弾き語りをしている
男の子、俳優志望でオーディションに落ちている子・・・・ダヴィッドは、身元を明かさず密かにできるだけのことをしてあげたい・・・「父親にはなれない。
でも守護天使のような感じ」という気分になってしまうのです。
しかし、裁判は「そんな非常識な事をした男は誰だ!!!」と話題になってしまう。
ダヴィッドは、今の自分が情けなくて、「もし、こんな自分が父親だと言ったらがっかりするだろう」
そこに、ポーランドから移民でやってきて、精肉店をやるまでになった一族、妊娠した恋人とどうする?、裁判の行方は?借金取りは情け容赦なし。
色々な要素をテンポよく、手際よく描いていきます。
ダヴィッドは金ほしさに精子提供をした。不妊で悩む人たちのため、というより金のため。でも、子どもの一人がはっきり言うように
「あいつは一回だけ。でも、僕たちは生き続けている」
不妊というのは深刻な問題で、そのために精子提供の場があって、533人のうち、訴訟を起こさなかった子どもたちは、もしかしたら
事実を告げられていないのかもしれません。または、顔も見たくない、興味ない、という子の方が多いのかもしれません。
あちらを立てればこちらが立たず・・・言い出したくても言い出せない。八方ふさがりのダヴィッドですが、父親が言うように「欠点だらけだけど、
誰からも好かれる」・・・ダヴィッドは、こっそり守護天使になると若者たちに好かれる。父親とは言えないから、ひとりの子どもの「養父」だから
興味があって・・・とすごく仲良くなってしまうのです。もう、同窓会的キャンプまでやってしまう。(皆、異父兄弟姉妹なんだけど、142人だよ)
どうしたらいいの?この状態。それでも、映画は、てきぱきと進み、傷つく人は誰もいない。
ダヴィッドは、ひとりだけに耳打ちします。「俺が父親だよ」と。
描くところは描く。描かないところは描かない。その取捨選択のセンス抜群です。だから、難しい、センシティブな問題も、すんなりと描ける。
ダヴィッドを演じたパトリック・ユアールの服が、えんじ色か緑色のジャージだ、というのもユーモラスな描写です。
『フル・モンティ』はうだつの上がらない男たちがストリッパーになる、『やわらかい手』では、病気の孫を救うために祖母が風俗店で働く。
そういうことは描きようによっては興味半分の後味悪いものになるところ、さわやかとさえ言える、共感を覚えるような憎みきれないろくでなし。
そんな姿が、だんだん素敵になっていく映画。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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