偽りなき者

偽りなき者

JAGTEN

2013年3月23日 千葉劇場にて

(2012年:デンマーク:106分:監督、脚本 トマス・ヴィンターベア)

 何の情報もなく時間が丁度良かったから飛び込んだ映画で、どこの国の映画か、結局最後のクレジットを見るまでわからなかったのです。

言葉からしたらドイツ語だろうか?と思いつつ観たのですが、この映画はどこの国かは重要でななく、のめり込んでしまいました。

 主人公のルーカス(マッツ・ミッケルセン)は42歳。小学校の教師でしたが学校が閉鎖になった為、今は幼稚園の先生をしています。

子どもたちから大人気の先生。朝、ルーカスが幼稚園に行くと子どもたちが、飛びついてきます。

ルーカスは離婚した男で、ティーンエイジャーの息子がいます。しかし、元・妻はともかく息子になかなか会えないのが実情。

 山に囲まれた美しい村でさかんなのは狩猟。ルーカスは狩猟仲間たちがいます。特に親しいのは隣家のテオ一家。

この映画は11月からクリスマスまでを描きますが、冒頭、狩猟仲間たちが池で寒中水泳をする大騒ぎから始まります。

テオの娘、クララは幼稚園生で、ルーカスの勤める幼稚園の生徒。

 しかし、このクララはどうも親の愛情不足で、情緒がやや不安定なのです。前を向いて歩けず、足元の道や線だけしか見ないからすぐ迷子になってしまう。親はそれをあまり気にしていない様子。送り迎えもぞんざいです。

ルーカスは何かとクララを助けますが、クララはルーカスやその飼い犬ファニーが大好きで、ルーカスにそれなりに愛情表現をします。

しかし、プレゼントはダメだよ、キスするのもダメ、とやんわりルーカスに断られるクララは、むくれてしまい、つい園長先生に「ルーカスはきらい」と言ってしまいます。

 丁度、クララはティーンエイジャーの兄たちからポルノ画像を見せられて、つい、そのポルノ画像のような事があったの・・・と嘘をつく。

それを間に受けて、真っ青になるのは園長先生です。幼児への性的虐待男だったのか?!

それがどういう事になるのか、クララはまだわからない。

大人たちが集まって「こうだったんでしょ?」「こうじゃなかったの?」と問い詰められて、首をこくこく・・・

 全くもって不幸なのは、無実の罪を着せられて狭い村で一気に村八分にされてしまうルーカスです。

ここでいきなり「変態男」と決めつけられて坂を転がり落ちるように村八分にされる様子が怖い。店で買物も拒まれる。家に嫌がらせをされる。

人間というのは、いとも簡単に加害者にも、被害者にもなってしまうのです。

このせいでクララは両親から、目をかけられ大事にされ、かわいそうに、怖くてなにも言えないのね・・・と親の愛情ひとりじめ。

 デンマークには「子どもと酔っ払いは嘘はつかない」という諺があるそうです。

ついに父兄会から、警察に通報、逮捕までされてしまうルーカス。クララの話だけで物事は進み、ルーカスは無実を訴えますが証拠がなく、

もう思い込んだ村の人びとはルーカスを排斥しようとします。

 それでルーカスは村を離れてしまいましたか?というと職も失い、動けないのが現状ですが、なんとかその非難の目に毅然と立ち向かおうとする。

そんな中、息子のマルクスがやってきて父をかばい、また狩猟仲間の一人はルーカスはそんなことする男ではない、と擁護しますがもう、怖ろしいほどにルーカスは追い詰められるのです。

クリスマスイブの礼拝に教会に行って、俺の目を見ろ!とまなざしで無実を訴えるシーンが迫力。北ヨーロッパのクリスマス風景が美しい中でひとりぼろぼろになった男が、無実の罪に対峙する、まなざし演技(カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞) 確かに、子どもや酔っ払いは本音を話すかもしれない。

しかし、私は子どもの頃、すごく嘘をつきました。言い訳するより嘘ついてしまった方がいい、と子どもながらに思ったりもしました。

浅田次郎さんは、小学生の頃、いたずら小僧で先生から「君は嘘つきだから小説家になればいい」と言われたそうで、それがエッセイのタイトルとなっています。

 今、性的嫌がらせ、セクハラなどにとても敏感になっている時代。と、同時にインターネットの発達で「嘘が本当になる」「ガセネタ騒動」

なんて、当たり前になっています。クララの兄が、見せたポルノ画像もインターネット。

一度、悪い評判がついてしまうと、それが本意でなくてもそれを払拭することは、ものすごく大変です。

ルーカスは、決して、ヒステリーを起こさない。いつも穏やかすぎるんだよな、と逆に言われてしまうくらい穏便な性格だし、新しい恋人もできたし、性的欲求不満を幼児にぶつける、なんてことはしないのです。

 監督はラース・フォン・トリアー監督などと親しいと後で知って納得です。トリアー監督の『ドッグヴィル』なども人間の深層心理の浅はかさを目をそらすことなく描いていました。

これは他人事ではない、と思う大人の映画。映画は、安易に流れず、ラストシーンは観客の胸を突き刺す。

インターネットは出てこないけれど、実に今のIT時代の隙をぐっと突いた映画。 

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