ヒッチコック
Hitchcock
2013年4月17日 TOHOシネマズ市川コルトンプラザにて
(2012年:アメリカ:99分:監督 サーシャ・ガヴァシ)
わたしが初めてヒッチコック監督の映画を観たのは中学生の時、ヒッチコック監督リバイバルシリーズがあって名画座ではなく一番館で次々とヒッチコック監督の映画を上映したのに通ったのですが、一番最初は『バルカン超特急』
そのおもしろさに魅せられて、名画座で追っかけることとなりました。
今だったらDVDですぐに観られるのでしょうが、大きなスクリーンで満員の人たちと一緒に映画館で観た記憶はすでに30年以上経った今でもよく覚えています。
さて、この映画は『ヒッチコック&メイキング オブ サイコ』というノンフィクションが出版されたものを映画化したそうです。
ヒッチコック監督が1959年、『北北西に進路をとれ』で大人気を誇るところからですが当時、すでに60歳。
無礼な記者から「そろそろ引き時では?」という質問にむ。とするヒッチコック監督(アンソニー・ホプキンス)
実はヒッチコック監督はすでに30年以上人気映画を撮ってきて、次回作は?に悩みます。
そこに見つかったのが当時アメリカで起きた猟奇的犯罪の殺人者、エド・ゲインの騒ぎでした。
ヒッチココック監督は妻、アルマ(ヘレン・ミレン)が表立ってはいないけれど若い時から優秀な助手、アシスタント、脚本、編集と手伝ってきました。
アルマは別の脚本をすすめますが、ごり押しして『サイコ』の企画を立てる。
反対したのはアルマだけではありません。映画会社も題材がグロテスクすぎる、もっと娯楽をと言うし、映倫も今より厳しくて裸はダメ、グロテスクもダメ、なんとトイレのシーンもダメだという。
映画会社はすんなり制作費を出してくれない。そこで、ヒッチコック監督はプールつきの自宅を抵当に入れて金を作り、配給だけしてくれないか、などといった『サイコ』製作裏話。
と同時に描かれるのがヒッチコック監督と妻、アルマの時に助け合い、時にいがみあい、けんかをし、仲違いしながらも二人三脚で映画を作っていくという面です。
妻、アルマについては写真もあまりなく、資料がなかったそうですが、妻、アルマを演じたヘレン・ミレンが素晴らしい。
ヒッチコック監督は映画やテレビの『ヒッチコック劇場』でよくその姿を知られていますが、酒やカロリーの高いものは禁止。
それでも隠れて酒を飲み、がぶがぶと高カロリーのものを飲む、食べる。
ヘレン・ミレンは『クィーン』でエリザベス女王を演じたくらいですが、この映画では妻、母だけでなく映画の右腕としてヒッチコック監督を
時に叱り、時に励まし、時にとっても嫌になる・・・そんな親しみを感じるような女性を演じていました。
なんといってもいいのは顔のうぶ毛です。光にあたってふわふわと輝く顔のうぶ毛。
同時に描かれるのは、妻と夫がお互い嫉妬しあう姿です。
ブロンド美人女優を次々と世にだしてきたヒッチコック監督はなんといっても「美人にでれでれ」
アルマは別の脚本の共同監督をしないか、と誘われそちらにも取り組むと夫のヒッチコック監督がねちねちとひがむ。
なんかひがみあいながら生活している夫婦というのが意外です。
しかし、映画の為に家をなくすかもしれないと言われても平気な顔で受け入れるアルマ。
ヒッチコック監督の映画をずっと影で支えてきた誇りと我慢のし続けでストレス一杯な様子。
アンソニー・ホプキンスは特殊メイクでヒッチコック監督を再現していますが、あまり資料のないアルマはヘレン・ミレンが作り上げたとこの映画の監督は絶賛しています。
確かに、ヒッチコック監督のような人と一緒に夫婦として暮らすのは大変だろう・・・しかし、そのおかげでプール付の豪邸に住んでいる。
健康管理もきちんとしなければならないし、夫が若い女優と浮気しても辛抱、いざとなると脚本の手直しをして、編集を受け持つ。
『サイコ』では斬新な手法を使おうと「主演女優が中盤で殺されるんだ」と言うと妻、アルマは「最初の30分で殺すのよ」
ピンとヒッチコック監督の頭に光りがともるような朝食のシーンは秀逸。
途中でもう我慢ならないっ、とアルマが不満をぶちまけるところが白眉。知的で教養もある妻から理路整然と言われて何も言えない夫。
主演女優は誰にしようというところですかさず、ジャネット・リーはどうかしら、と助言して決まる。
現れたジャネット・リーをスカーレット・ヨハンソンが演じていて、もう結婚して子供もいるけれど賢く、そして陰口に左右されないしっかりとした女優で「プロ意識の塊」となっています。ですからさすがのヒッチコック監督も手を出すというより友情のような信頼関係を築けるという賢さ全開。当時のメイクがとても濃くて、アイラインがくっきりペンで描いたようなメイクですがそれでもスカーレット・ヨハンソンは他の映画では見せなかった「賢さ」を体現しています。
さて、『サイコ』は自費で製作したので困難だらけ。無事成功するのでしょうか。
まぁ、今の時代になってみると『サイコ』は最高傑作と言われる映画になる、とわかっていますが、映画製作の裏には大変なプレッシャーがあったのですね。
ぎりぎりまでどうなるかわからない撮影、スタッフや役者との確執、それをすべて上手くまとめた妻、アルマ。
なによりもアルマが映画を理解していた、というのがだんだん浮き彫りになってきます。セットや衣装などとても凝っています。
映画の冒頭とラストが「ヒッチコック劇場」のパロディになっているなど遊び心もたくさん。
ヒッチコック監督の映画を知っている人は、楽しめると思います。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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