たとえ世界が終わっても Cycle soul apartment

たとえ世界が終わっても Cycle soul apartment

2013年11月5日(DVD)

(2007年:日本:98分:監督、脚本、編集 野口照夫)

 日本映画でたまに遭遇する小品だけれども、派手さはなくても実にじんわりとしていて、寂しげで、いつまでも余韻を残す・・・

そんな映画が好きです。

たとえ、大きなシネコンで上映されなくても、最初は東京の単館上映でもじわじわと口コミで良さが伝わっていくような映画。

この映画を観て、『世界はときどき美しい』や『眠り姫』といった映画を思い出しました。

 この映画を観た理由は、大森南朋と安田顕が出ていたからなのですが、2週間という短い時間で作り上げられた映画ではありますが、映像は落ち着いていて、言葉でべらべらと説明をしない脚本の上手さがあります。

観やすい映画の要素のひとつに「脚本がいい」があります。

 真奈美という東京で働く女性(芦名星)は、母と同じ難病にかかり、自暴自棄になって死ぬことばかり考えた結果、ネットの自殺サイトを見つけ、死ぬ決意をする。

そこで出会った不思議な管理人、妙田(大森南朋)

妙田は、アパートの管理人もしているけれど、そこは「敷金・礼金・家賃なし」という不思議なアパート。

誰もが入居できる訳ではなく、妙田いわく「前世で関係のあった人」しか入れないという。

 妙田は、死ぬ事を決意した真奈美にある提案をします。

三号室に住んでいる売れないカメラマンの男、長田(安田顕)も病気。どうせ無駄に捨てる命ならば、1人の男の命を救ってやってよ。

そうして持ちかけられた偽装結婚。

 ヒロインの真奈美は、病気の事、死ぬ事で頭がいっぱいでいつも無愛想で、無口、殻にこもったような状態。

長田というカメラマンは、おとなしくて、気配りばかりしていて、それでいて、素朴で純朴。

三号室にいるということは、妙田と前世で何かあったのだろうと言う事はわかりますし、真奈美も妙田によれば以前このアパートに住んでいて、真奈美と長田は恋人同士だったでしょ?と涼しい顔で衝撃発言をする。

飄々として、つかみどころがない、謎の男・・・死に神なのか天使なのか?よくわからないけれどその存在感を出す大森南朋はさすが。野口監督は、脚本の時点でもう大森南朋を想定していたと言います。

 妙田の思い通りに結局、事は運んで、真奈美と長田は婚姻届を出しますが・・・・

なんだかすっきりしない真奈美と、ぽかんとしている長田という組み合わせも良かったですね。

訳わからず、やあやあ、ご結婚おめでとう~!と言われても・・・そして、夜、「あの・・・私達、結婚したんでしょうか?」と

朴訥につぶやくように言う長田。

いや、偽装結婚で相手に安田顕さんが出てくるなら、わたし、いくらでもするわっと思ってしまうのですが、

唐突を唐突と描かず、当然と描くのがこの映画なのです。

 自殺したい、死にたいというネガティブな思いから始まるので、暗い映画かと言うとこの映画は妙に光に満ちていて

逆光の多い撮影がとても美しい。

汚いものを汚く描くのは野暮だけれども、この映画がネガティブなものをあくまでも優しいソフトな光で包んでいる。

それは、軽いような、何もかも知っているような不思議な存在の大森南朋の存在感と、暗い顔していても

どこか気の強い、意志の強いような、頑なな背筋が美しい芦名星。そして、見た目は二枚目だけれども、どこか抜けていて

朴訥で、純粋で、ぽかんとしているけれども綺麗な真奈美という女性と結婚できちゃって、なんだか嬉し恥ずかし・・の安田顕。

 「水曜どうでしょう」での安田顕は、独特な存在で「安田顕参加企画」はとても人気があるし、演劇の世界ではTEAM NACSのサブ・リーダーで老け役から、悪役まで幅広い演技力を持っているのですが、やはりどこか「話しかけないでオーラ」を出している、というのはありますね。

ハンサムな顔立ちしているのにどこか、不器用さをにじませている。生きにくい世の中、なんとか生きてますという感じ。

 映画はなんともいえないビタースィートな余韻を残します。

DVDの中には監督のメッセージが入っていて、「なんだかどうしようもなく辛い気持ちになった時、このDVDをプレイヤーに入れてみてください」とあるように、明るいお子様向けの良さはないけれど、大人の疲れた気持の背中をそっと押すような良さがあります。

この世にこういう、辛さを和らげる、ほっとして、そしてメロウになる一押しとしての映画は必要でしょう。

0コメント

  • 1000 / 1000

更夜飯店

過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。