地獄に堕ちた勇者ども

地獄に堕ちた勇者ども

The Damned

2013年12月21日 DVD

(1969年:イタリア:166分:監督 ルキノ・ヴィスコンティ)

 とにかく男たちの顔の汗。流れ落ちる汗。それが優位に立つ者であっても追い詰められた者であっても、流れ落ちる汗。

すごい「汗」の映画です。そして制服の映画。

 この映画は高校生の時、名画座で観たのです。

その時は、疲れただけでいい印象は持ちませんでした。無理もない、高校生が観る映画でしょうか?これ?

背伸びしていた自分をまざまざと見せつけられる気がしましたね。

高校の時思ったのは「大人になったらもう一度観よう」だったと思います。さすがに自分、子供すぎました。

 実在したドイツの鋼鉄王と言われた貴族一族の野心と退廃と没落、そしてナチス第三帝国の台頭を描き、それがそのままナチスの行く末を

見事に現わしている、完璧映画で、もう、一度映画が始まったら予感の連続で目が離せません。ルキノ・ヴィスコンティ監督の映画は

完璧主義で満ちあふれていて観る者を圧倒します。

その一例が、男たちの顔に流れる汗の連続であったり、ナチスと言っても最初は突撃隊と陸軍は相反する存在で、ヒトラーの写真見せてハーケンクロイツの腕章してたらナチス、なんて安直な描き方はしていません。甘ったるい事は一切なし。

 戦争に必要な軍需産業、鋼鉄。それをナチスが狙うけれど、最初はナチスとは距離を置いて会社を存続させたいと語る社長である男爵。

しかし、巧みにナチスは入り込み、邪魔者を消し、弱みを握り、だんだんと台頭してきて最後は会社そのものを乗っ取るのは誰か?

ただの一族の後継者争いの話だけでなく、戦争、そしてナチスというものをこれだけ見事に絡ませるのは相当な執念ないと出来ませんね。

 俳優たちも、大変素晴らしいけれど、ハインリッヒ(ダーク・ボガート)は社長の娘であるソフィ(イングリット・チューリン)の愛人であり結婚により、貴族の家に入り込み、会社ごと乗っ取ろうとしますが、それはナチスの差し金でした。

ソフィにはまだ若い息子、マーティン(ヘムルート・バーガー)がいて、男爵が殺された事により、唯一の男の孫、マーティンが筆頭株主となる。

最初は、会社の経営権をすべてハインリッヒに託すと弱気なマーティンですが、マーティンは性倒錯嗜好があり、そこを弱みにも

強みにもしてしまうのもナチス。

最初は、母であるソフィが野心でもって、ハインリッヒをそそのかすけれど、ナチスはマーティンを巻き込もうとするのです。

そして変貌をとげるマーティン。マーティンは、性倒錯者ではありますが、その原因は「強大な母」の存在でもあり、その母への飢えた愛が

憎悪と変わって行く。

 よく映画で、涼しい顔をして殺人のシーンなどがありますが、この映画に出てくる男たちは皆、だんだん汗だらだらになっていくのね。

それが怒りであっても、緊張であっても、驚きであっても、汗が噴き出てくるのをカメラはアップでとらえる。

美青年として騒がれたヘムルート・バーガーの何気ない目のさまよい方とか、すごくリアルでただの「顔のきれいな若い男」ではないのです。

 久世光彦さんは、この映画のナチスの黒の制服の美しさと怖さについて書かれていましたが、たしかにこの映画は制服の映画でもあります。

ナチスが着る制服は漆黒なのね。ただの黒ではなく黒光りするような漆黒なんです。

そして、橋本治はこの一族に仕える者たちが、青い制服で統一されていることの美しさを指摘しています。

確かに、この一族の使用人たちが青の制服でキビキビと働く様子は、それだけで美しい。

美しいけれども、制服の怖さ・・・没個性という怖さも出しています。

 美術などは本格的で、セットではなくロケで重厚感あふれる美しい、時に広すぎて空しくなる虚ろな美しさを強調していました。

今は特撮でいくらでも絵は作れるのだろうけれど、本物にはかなわないのよ。

怖いものを強力に美しく撮る、見せる、その技は誰にも出来るものではありません。

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更夜飯店

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