ローラーとバイオリン

ローラーとバイオリン

Каток и скрипка

2013年12月28日 DVD

(1961年:ソビエト:46分:監督 アンドレイ・タルコフスキー)

 10代の頃からよく通っていた映画館は今はほとんどなくなってしまいました。

2013年銀座テアトルシネマが閉館になったとき、本当に「わたしの映画館時代」は終わってしまったのか・・・と思いました。

映画以外のことに夢中だった時期も途中に何度もあったりして、映画通ぶるのは年齢的にもう、嫌になってしまいました。

本当に映画にのめり込んでいたのは、10代の時と40代の時だったと思います。

飽きっぽいのでしょうが、それでも、やはり子供の頃から慣れ親しんだ本と映画は、ふと、我に返るといつでも戻れる場です。

 三百人劇場に初めて行ったのは1982年ですから、19歳の時。その時は中国映画の全貌’82でした。

その後、毎年の映画祭のようにソビエト映画の全貌と中国映画の全貌は続き、2006年、三百人劇場が閉館になるとき、

やっと未見だったアンドレイ・タルコフスキー監督の『アンドレイ・ルブリョフ』が観られたのです。

「ソビエト映画の全貌」では、アンドレイ・タルコフスキー監督の映画は必ず上映されていたのですが、いつもこの『ローラーとバイオリン』は

見逃していました。

今、DVDの時代になってもレンタルにはなかなかタルコフスキー監督の初期の映画は並びません。

しかし、何故か、レンタルの中に入っていたのです。やった~~

 わたしは正直申し上げますと、この映画「ローラとバイオリン」と記憶していて、バイオリンを弾くローラという女の子の映画と

勝手に思い込んでおりました。

この映画が46分と短いのは劇場用映画として作られたのではなく、タルコフスキー監督の大学映画監督科の卒業制作映画だったから。

ニューヨーク国際学生映画コンクールで第一位をとっています。

 映画はサーシャという7歳のバイオリンを習う男の子と道の舗装工事のローラーの運転手、セルゲイとのささやかな交流を描いたものです。

5歳からバイオリンを習っているサーシャは当然ながら労働者階級の子どもではありません。

「音楽家」とアパートの周りをたむろしている悪ガキたちから、からかわれて、いじめられているのを助けたセルゲイ。

サーシャにローラーの運転をさせてあげたり、お昼を一緒に食べたりして、仲良くなるサーシャとセルゲイ。

 映画はバイオリンの稽古に行こうとするサーシャから始まります。

めいっぱいおしゃれをして、正装してお稽古に行くと、頭に白い大きなリボンをつけた女の子がいたりして、先生はとても厳しい。

街は新しい建物がどんどん建てられようとしている時代で、鏡ごしに少年が見る街の風景がこれから新しい時代を迎えるという

雰囲気を出しています。ここのシーンはとても美しく、映像は全編通してとても美しくクリアなのですが、特に時代を映す鏡の使い方、

上手いですね。

 セルゲイはとてもサーシャに優しいけれど甘やかしはしない。「音楽家」と言われて、む。としてパンを地面にたたきつけるサーシャ。

それを厳しく、パンはタダではない。そこから木が生えるとでもいうのか。拾いなさい。ときちんと言える大人なのです。

そんな労働者階級でありながらも尊敬できる、大好きになったセルゲイのあとを追いかけるサーシャが生意気でありながらも幼くて可愛い。

 サーシャは、セルゲイの前でバイオリンを弾いてみせる。

激しい夕立の後、水たまりの光が壁に反射してきらきらしている中で、きれいにバイオリンを弾く少年とそれを見つめる労働者。

バイオリンの音楽が流れるだけなのに、少年と労働者の間の溝がなくなっていくのがわかります。

しかし、少年の母はいい顔をしない。けれども・・・という流れになっていきます。

 ローラー車を運転したい、という男の子らしい願望と初めて音楽というものに触れた青年の感嘆が素晴らしい映画です。

短いけれど、ラストシーンが秀逸。なんとも心温まるいい映画です。

これでアンドレイ・タルコフスキー監督映画、すべて観られたという記念すべき映画でもあります。

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更夜飯店

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