少年と自転車

少年と自転車

LE GAMIN AU VELO/THE KID WITH A BIKE

2014年1月11日 DVD

(2011年:ベルギー=フランス=イタリア:87分:製作、監督、脚本 ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ)

 この映画は、ダルデンヌ兄弟(『息子のまなざし』『ある子供』)の映画とは知らなくて、なんとなくダルデンヌ兄弟の映画みたいだなぁ、と思いました。

それくらい、ダルデンヌ兄弟が作る映画は特徴があります。

フィクションであっても(役者をオーディションして、リハーサル、脚本あり)全編をドキュメンタリータッチで描いていることです。

ですから、作り話とは思えない迫力と緊張感が途切れる事がありません。

 12歳のシリル(トマ・ドレ)は、施設にいます。父親が死んでしまったのではなく育児放棄をして、施設に預け、

引っ越し、転職してしまったのです。

父が買ってくれた自転車がなくなり、それに頑なに固執する、シリル。

ひょんな事から、美容院を経営している美容師のサマンサ(セシル・ド・フランス)の家に週末だけ里子に出される事になります。

シリルは、全身の毛をいつも逆立ててる警戒した猫、みたいな少年なんですね。

だからサマンサの言う事も聞かない頑固な子で、サマンサもてこずる。

 映画は、淡々と父を追い求めて拒絶されるシリルと、それを見つめているサマンサを丁寧に描きます。

ドキュメンタリータッチである、ということはものすごく冷静なんですね。

甘ったるい、予定調和な事は全くなく、シリルは良い子なんかにすぐにならない。

サマンサも、自分の子ではないのにどうして里親になんてなってくれたの?と聞くシリルに「わからないわ」と素っ気ない。

出てくる食事や食べ物も質素で、決して美味しそうとは思えない、リアルさ。

美味しいもの食ってばっかりの日本のテレビに慣れてしまった観客は、きっと唖然とすると思います。

食べ物を素っ気なく描くことでは、アキ・カウリスマキ監督に並びますね。描かないのではなく、嘘くさく描かない。

 この素っ気なさというのは、観客に直接ぶつけられるものなのです。

だから、映画館の椅子に座れば、映画が自分を楽しませてくれる、という考えだと、この映画からひどいしっぺ返しをくらうことになります。

ダルデンヌ兄弟が製作も兼ねているからこそ、できる英断であり、勇気であり、自信ですね。

これが日本のテレビ局とかが製作すると、美談とか、泣ける話とか、いい意味での観客サービスをしてしまうのです。

 シリルは、自転車をめぐってサマンサの家の近くにいる悪ガキたちからからかわれ、そのボス格である青年から

目をつけられてしまう。

自分の盗みを手伝わせようと最初は甘い餌を与え、結局、罪をなすりつけてしまう。その辺が、孤独な少年の心にするりと入り込む妙技あり。

サマンサにきつく禁じられても、だまされているとは夢にも思っていないシリルは、サマンサの意見を無視して事件に巻き込まれることに。

 何故、サマンサがここまでシリルに我慢できるのか、そこを映画は描きません。もともとが父が育児放棄したのも「転職には重荷だから」だけ。

ダルデンヌ兄弟は、理由や何故を描かない。こうなってしまったのだから、こうなる、を厳格に描きます。

だから、見ていて少年が演技しているとは到底、思えないんですね。まるで本当にこういう子なんだ、と思ってしまうくらい

迫真の素のような演技。子供たちが、走ったり、けんかしたり、はしゃいだり・・・それだけにリハーサルを40日かけた、との事で

ダルデンヌ兄弟の入念さがわかるかどうか。相変わらず、映画を観るということへの試金石みたいな事をきちんと真面目にやりますよね。

最後、自転車をこぐシリルの後ろ姿は、寡黙なようで、雄弁です。

決して派手な楽しい映画ではないのだけれど、映画を観る者をゆらす、そういう余韻は十分にあります。 

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更夜飯店

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