おみおくりの作法

おみおくりの作法

STILL LIFE

2015年1月31日 シネスィッチ銀座にて

(2013年:イギリス=イタリア:87分:監督 ウベルト・パゾリー二)

 時間も短く、地味で、陰気といえば陰気な映画であることはわかっていたのですが、土曜日の映画館は満員でした。

『おくりびと』の映画と同じように「人の死」を仕事にしている、だけではなく、そこにいかに生きるか、が

実に丁寧に織り込まれていて、映画祭などでも評価され、映画館も大人の観客が押しかけて、まだまだ映画はすたれない

と思った次第。

 イギリス、ケニントン地区の民生係の40代の独身男、ジョン・メイ(エディ・サーマン)

映画は墓で始まり、墓で終わるのですが、ジョン・メイの仕事は、孤独死した人の葬式を行い、親戚を探すことなのです。

孤独死する人はたくさんいて、そのひとりひとりの人生を丁寧に追い、知り合いや親戚を訪ねて歩く。

冒頭、葬式で参列しているのはジョン・メイだけ、というのが3つも続いて、彼の仕事があまりむくわれない仕事である

事がわかります。

 ジョン・メイ自身も無口で表情がなく、地味な生活をしていて家族に恵まれているとか、友人がたくさんいるという風は

全くありません。家に帰ると殺風景な部屋で、ツナ缶とトーストとリンゴだけの食事をとっている。

しかし、仕事になるとコツコツと手がかりを探して、なんとか葬式に来てもらうように心を砕いている様子は

その無口な背中が雄弁に語っています。

 過去、華々しい事もなく、むくわれない仕事を嫌がる風でもなく、葬式が終わると孤独死した人の写真を家のアルバムに

貼っていく。

そんな時、人員削減のせいで、ケニントン地区の民生係は合併することになり、ジョン・メイは解雇されてしまいます。

孤独死した人にそんなに時間を割くのは合理的ではないという理由で。

最後の仕事となったビリー・ストークという老人の家族や知り合いを電車で、徒歩で集めてあるくジョン・メイ。

解雇されて表情も変えず、ただ受け入れるしかない、という表情が哀しい。

 ビリー・ストークという老人は最後は孤独死しましたが、かつては結婚していて、戦争にも行っている。

しかし、刑務所に入った事もあるし、アル中でもあって、誰からも関わりたくないと言われてしまうのを

何とかしようと情報を集め、説得をする。

表だってはわからないけれど、実はこういう事をする人がいないと困るのだ、というのがジョン・メイを見ていてわかります。

ジョン・メイを演じたエディ・サーマンは滅多に表情を変えないけれど、とってつけたような笑顔と本心から出た

微笑みをきちんと演じ分けているのにびっくりしました。口角を上げればいい、というものではないんですよね。

 最後は一人だったからといってその人の人生がずっとひとりだった訳ではない、ということを雄弁に語っているのです。

最後、孤独死だったから、というその死の瞬間だけで人生を決めつけないでほしい、そう訴えているようです。

映画は、哀愁をもって終わりますが、ただの暗い映画にしていないのは飄々とした乾いたユーモアも上手く織り込んであるからです。

地味だけれども、いい映画。 

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