悼む人

悼む人

2015年2月15日 TOHOシネマズ市川コルトンプラザにて

(2015年:日本:138分:監督 堤幸彦)

 原作は直木賞を受賞した天童荒太の同名小説です。

(日曜美術館の司会をするようになった)井浦新さんが出ているから小説を読み、映画を観たというミーハーなわたし。

しかし、天童荒太さんの世界はミーハーな気持なんか受け付けないから、結果、この世界にどっぷりとはまり、

いい物語というよりも、世の中の痛みを本当に上手く書く人だと感心しました。

 映画と原作はもともと違うものですが、堤監督は映画化の前にこの小説の舞台の監督もしていて思い入れはものすごいものが

あると思います。

 物語は、坂築静人(高良健吾)という青年が日本全国を旅しながら、死んだ人を悼むという所から始まります。

その悼む様子をたまたま見てしまったのが、雑誌記者の蒔野(椎名桔平)

エグノというあだ名の通り、えぐい記事専門のやさぐれた記者ですが、静かに死者を悼む静人が理解できないけれど、

興味を持つ。

静人は、「誰を愛し、誰に愛され、感謝されてきたか」だけを聞き出し、それを忘れないという・・・冥福を祈るのとは違う、

悼む、そして忘れない。

何故、静人はそんな旅をしているのか?

 また、静人の母、巡子(大竹しのぶ)は末期ガンで余命宣告されて、在宅で治療を受ける事にする。

静人の妹、美汐(貴地谷しほり)は望まれない妊娠をして自宅で出産を決意する。

 静人の旅を見かけたのは蒔野だけではありませんでした。

奈義倖世(石田ゆり子)という女性は、夫殺しで受刑、刑期を終えて出て来たものの身よりもなく静人の旅につきそうことに。

倖世は、暴力をふるう夫から逃げてきた時、かくまってくれた甲水朔也(井浦新)と結婚する。

幸せになれたと思った所、夫は「愛しているなら自分を殺せ」と命令する。

せっぱつまって、夫を殺したものの、幽霊のように甲水は倖世のそばについてまわる。

 色々な人びとの思いが錯綜する物語で、原作はみっしりと描き込まれていましたが、この難しい原作をよく映画化、

映像化したと思います。北海道、東北、北関東・・・旅をする映画でもあり、雪、桜、新緑・・・と季節をめぐる物語でも

あります。

 印象に残ったのは、蒔野を演じた椎名桔平の汚れぶり、甲水を演じた井浦新の怪物ぶり、巡子の夫、鷹彦を演じた

平田満の無言の演技のすごさですね。キャスティングとてもいいと思います。原作通りというか、あえて静人という

青年は気持が書かれていないので、演じる時に難しかったと思うのですが、伏し目がちで、唇をかみしめているような

高良健吾は透明感があって素敵です。

決して、愉快で楽しい物語ではないのですが、「悼む」という言葉と「愛」という言葉の重みがずっしりとくる映画であり、小説なんですね。

なにもかもハッピーエンドな世界ではないけれど、小さくても確かなものをすくい上げるような映画です。 

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