赤目四十八瀧心中未遂

赤目四十八瀧心中未遂

2004/03/03

テアトル新宿

 

かつて泉鏡花が描いた迷宮という世界。

迷宮にさまよいこんだらもう出ることは出来ない世界。

今、現代の迷宮とは、渋谷である、と聞いたことがあるのですが、この映画はまさに「迷宮の映画」であると思います。

全てに絶望して、尼崎にやってきた一人の青年。その青年が迷い込む世界、街、アパート、駅のロッカー

そして赤目四十八瀧・・・どれもどこをどう歩いているのか、出口、入り口がさっぱりわからない、

地図のない世界を彷徨う一人の青年と迷宮にうごめく人々。

監督の荒戸源次郎さんは、かつて鈴木清順監督の迷宮映画の傑作『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』のプロデューサーでした。

今度は監督として現代の尼崎という迷宮を映画という手法で描き出していると思います。

「よそ者」はいつまでたっても「よそ者」であり、皆がその様子を伺っている、試している・・・そんな不気味さ、大楠道代さんと内田裕也さんの2人のほか、その周りにいる人々もなかなか本性を出してこない。

そういったやりとりが、緊張感を持って描かれていて不思議の世界でもあり、不気味の世界でもありました。

そんな中で、綾という女性と「心中道行」をすることになるのですが、この綾を演じた寺島しのぶさん、『ヴァイブレータ』に引き続きとても、妖しくも純粋なという両極の面を持ち合わせた女性を演じていて、立ち姿など、実に美しく撮っています。

白や赤一色の衣装というのは、なかなか、実際の生活にはなじまないのですが、迷宮じみた街の中では絵を切り取ってきたかのように美しいです。

それは、街を歩いていても、瀧の周りを歩いていてもかわらない美しさ。そしてその細身からなんとも不憫さがたちのぼってくるかのようです。

それまでは世間からずっと逃げてばかりいた青年が、一緒に死んでくれるか・・と綾に聞かれたとき、初めて

「死にたくない、行きたくない」と思う。

四十八瀧をさまよった後、初めて「笑う」そして夜顔の白い花がゆっくり開く・・・そういった心理描写を幻想的な

シーンにダブらせることは台詞でしゃべるよりも説得力があります。

寺島しのぶさんが賞などで、評価されたことは嬉しいのですが、『ヴァイブレータ』とこの映画での存在感は

見事なもの。

そして彫眉の内田裕也さんの存在感も圧倒的でした。

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