わが故郷の歌

わが故郷の歌

2004/04/01

岩波ホール

 

戦争を縦糸だとしたら、横糸は音楽とユーモア。

出てくる人たちが皆、子供たちを含めてなんともいい味を出していて、ほのぼのとしたヒューマン・コメディの前半。

そして豪雪地帯の難民キャンプでの悲惨さの中でも、歌と子供たちの遊ぶ姿を決して忘れない監督の視線に

優しさを感じます。

確かに、イラン・イラク戦争の実態は日本では考えられない世界。

イランとイラクの国境地帯が舞台となりますが、常に音楽や会話にかぶさるように爆撃機の轟音が響きます。

しかし具体的な敵は全く描かれません。音だけです。それがとても効果的。

どんなにほのぼのとしていてもその轟音を耳にするだけで戦争中という現実が隣り合わせだという緊迫感に

襲われます。

それが、観る側に精神的な苦痛は全く与えていません。

話はクルド人なら誰でも知っているという大歌手がやはり歌手の2人の息子を巻き込んで大昔に駆け落ちして

しまった妻を捜しに行く珍道中。

缶で作った楽器を持った少年が、「初めまして~」と挨拶する絶妙な間・・・ちゃっかりモンのお医者さん、

若い女性の歌声に恋してしまい即結婚を申し出てしまう次男、首だけだして埋められてしまうおじさん、

孤児のキャンプで爆撃機を子供たちに見せながら、飛行機の素晴らしさを熱心に説く若い先生、

そして子供たちが一斉になげる紙飛行機。

映像も何気ないところでとても工夫してあって、少女の顔にバイクのミラーの光が反射するなかに

ハートマークの影が出ていたり、声の美しい女性の影と次男の会話。

難民キャンプの暗闇を照らす焚き火の火のあたたかさ。

とてもファンタジックで、サイドカー付のバイクに男3人の旅で出会う人々は皆歌を忘れず、懸命に生きています。

悲惨さとユーモアの融合のさせかた、監督のセンスはとても素晴らしいと思います。

これは、今の「平和な日本」では描かれない「現在進行中の戦争」

そして、これは歌と子供たちの映画だと思います。

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