シルミド/SILMIDO

シルミド/SILMIDO

実尾島

2004/05/27  よみうりホールにて(試写会) 2003年韓国:135分:監督 カン・ウソク

実話をもとにしているという点で重みがあります。十分ありえる設定で無理がないからです。

1971年実際に起きた事件をさかのぼって映画にしたということですが、内容的にはかなり政治的なからみがあるのでまずこの映画を作った勇気と苦労がしのばれます。

1968年北朝鮮の金日成主席を暗殺するという目的のために死刑囚たち31人がシルミ島という無人島に集められ極秘訓練を受ける。しかし社会、政治情勢の変化により、その部隊は抹殺命令が下る。

とても真面目で律儀な映画、ですね。

情け容赦ない厳しい命をかけた訓練に、耐えていく、または脱落していく集められた死刑囚たちの団結と、その訓練兵たちとの関係のゆるやかな変化。上の命令ひとつで、生命が左右されてしまう非情さ。民間人だったら許されないのでしょうが、皆罪人、死刑囚であり闇から闇へ葬り去られるのがわかっている運命の哀しさ。

あまりにもあっけない抹殺命令に対して、悩み、分裂していく教官兵たち。

丁寧、というより律儀に描いています。さまざまなエピソードの使い方とか細かい配慮がみられて、それがストーリーの隙間を

上手く埋めています。ある意味、隙のない映画。

訓練の責任者が、あの温和なアン・ソンギでちょっと意外なキャスティングに思えたのですが、訓練の時の発声、声が迫力あるのですね。重みのあるかみしめるような口調。

血の気の多い訓練生たちを暴力ではなく声で制していくところ、さすがアン・ソンギさん。

訓練生の中で一番リーダーシップがあるのが『ペパーミント・キャンディ』『燃ゆる月』『オアシス』のソル・ギョング、またまた違った顔をみせて、韓国の俳優さんの中ではカリスマ的存在なのだなぁと納得です。そして訓練の上官、チョ2曹が『火山高』の強力教師、ホ・ジュノ、訓練生のもう1人のリーダーが『ガン&トークス』のスナイパー、チョン・ジェヨン・・・表面的なキャラクターと内面のキャラクターの描き方本当に律儀なんですね。人間の表と裏を見事に描いています。

だから、実話とはいえフィクションであっても現実味が、重みが感じられるのです。その迫力は派手な銃撃、爆発シーンなどより胸に迫るものがあります。

鬼のようだったチョ2曹の飴・・・あのシーン好きですね。あれよあれよという展開にすっかり忘れていたささやかな伏線を一瞬で見せてしまう。こういう伏線の使い方が個人的にほとほと感心してしまうのでした。

韓国では大ヒット、という宣伝文句ではありますけれども、これが即、歴史、価値観の違う日本の興行成績につながるとは思えないのですが、韓国のある一面というのを興味深く観られる人にはおすすめしたいと思います。

北朝鮮からみではありますが、ここでの戦いはあくまでも「誰が悪者だか全くわからないままの戦い」そのむなしさのエスカレートぶりって『JSA』と同じくらい重みがあります。そして余韻を残すラスト・シーン。

観終わったあと、とても厳粛な気持ちになりました。それも『JSA』の時と同じです。

0コメント

  • 1000 / 1000

更夜飯店

過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。