父と暮せば

父と暮せば

2004年6月24日   イイノホールにて 2004年日本:99分:監督 黒木和雄

去年『美しい夏 キリシマ』で、自分の戦争体験を映画にした黒木監督の戦争レクイエム三部作の3作目。

井上ひさしの戯曲の映画化です。

原作が戯曲、ということでセットもほとんどが父(原田芳雄)と娘(宮沢りえ)の住む家の中が中心で、一幕ものの舞台のようです。

そこで広島で被爆した父と娘の会話で話は進んでいきます。

終戦から3年経って娘は図書館司書をしている。そこに利用者の木下という青年(浅野忠信)が現われ、好意をよせられているらしく娘は戸惑い、娘の恋を成就させようと説得する父。

登場人物はこの3人だけ、といってもいいし、木下青年は少しだけなのでもう原田芳雄と宮沢りえがどこまで、演技力をスパークさせるか、がとてもスリリングで、この2人それをしっかり堂々と演じきっています。

特に、被爆しても「生き残ってしまった」自分の生きる価値も意味も迷い悩んでいる宮沢りえ、凄い。悲惨なシーンはなく、もう、台詞、表情、しぐさ、全身で戦争が終わっても消える事ない苦しみを体現しています。りえちゃんは声が美しいですね。笑っても怒っても泣いても、その声の透明感が素晴らしいので観るものの胸を打ちます。

おとったん、原田芳雄は、ユーモアあふれるふてぶてしさがあって、娘に怒られると小さくなってしまったり微笑ましいです。

娘の悩みは十分わかった上で、木下青年との恋愛の成就というかたちで、立ち止まっているところからなんとか一歩前進させようというあれこれ、がまたユーモラスかつ真摯で胸打たれますね。

娘は木下青年から饅頭をわけてもらう。「それはお前を好いとる証拠ぞ。この饅頭にこめられた想いを考えんかい・・・」と饅頭一個で恋愛を熱く語る父。「おとったんたら!!!」と娘がいさめても、全くやめない、広島弁の父娘のやりとりには心が和んでしまうくらい。

しかし、娘の苦悩は深く、戦争の傷が癒えることはないという現実の悲劇はひしひしと感じられ、そのやるせなさったら・・・

原作戯曲の上手さ、もあると思うのですが、映画のセット美術は木村威夫。重厚な深みのある美術ですよね。狭い舞台でも全く飽きさせる事のない技量がつまった映画ですね。

進藤兼人監督の『ふくろう』も大竹しのぶと伊藤歩、2人の演技力に圧倒されましたが、この映画も同じ。

ラストシーンの2輪の花は、父と娘なのでしょうか・・・・意味深な映像です。 

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