ヒッチハイク 溺れる方舟

ヒッチハイク 溺れる方舟

2004年7月8日 ユーロスペースにて 2004年日本:83分:監督 横井健司

北海道に単身赴任中の夫(寺島進)のもとへ東京から妻(竹内ゆう紀)がやってくる。車で戻る途中、1人のヒッチハイカーを乗せたことから狂う歯車・・・というと昔の『ヒッチャー』という映画を思い出します。

最初はとても「低姿勢でいい人」なのに、夕方になると態度が豹変して銃をつきつけてくる・・・夫と妻の間は冷え切っておりどちらも「自分の保身」しか考えられない。この夫婦の間に今あるもの、それはただ「金」だけなのだから。

狂気にとりつかれた男、よりもこの冷え切った夫婦というのがとても怖かったです。むしろ男は人間くさい。

夫はそれなりの仕事をして稼いでいる、妻は生活に不自由はない、結婚もして世間的には「普通の大人たち」なのですが、緊急事態になると、その世間の仮面がばりっとはがれて、音をたててくずれていくのです。

しかも、この狂気の男を拾ってしまったのは偶然の不幸ではなく、必然の罰だったのだ・・とがらがら話が転がっていくところは脚本オリジナルだそうですが、上出来のミステリーのよう。

『リアリズムの宿』などに出演した山本浩司の青年の出現によって、夫婦の徹底的な溝が暴露されてしまうのですが、妻の方がなんだかんだいってしぶとくひらきなおってる、その冷たさがとても怖い。

どんないいひとでも怒ることはあるし、憎むこともあるでしょうし、やはり自分の身が一番という気持ちがあって(まぁ、自分を大切に・・・なんて言い方もするわけですが)その一歩手前にあるのが「ケチになる」ということなんですね。

金だけでなく「もう~してあげない」「教えてあげない」という精神的なケチ。自分の懐はしっかり守って人を

責める。夫婦と男、この3人って大人なんですが、子どもじみたケチぶりを暴露しあう後半。それが他人事ではないと身につまされる訳です。

また夫婦の間の秘密を作り、溝を作るのは携帯電話であり、パソコンのHPやチャットであって、コミュニケーションの手段が逆に非コミュニケーションを招いているという皮肉な使い方。

しかしまたまた話は急展開しますから、ただのドロドロ男女夫婦憎悪ものではないところが思わずおお~っと、外の風景はあくまでも雄大でのんびりした北海道の風景ですし。

北海道でロケしていて、明らかにお金かけていないのですが、ラスト・シーンに至るまで緊張感が漂っていて、もちろん夫役の寺島進さんはさすがです。人間の小ささ、弱さ、ケチくささ、反面、男を追い詰める立場逆転では頭の良さ。

う~ん、寺島進さんはどんな役をやっても「等身大」を演じることができる役者さんですよ。

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