亀も空を飛ぶ
Lakposhtha ham parvaz mikonand(Turtles Can Fly)
2004年11月24日 有楽町朝日ホールにて(第5回東京フィルメックス)
(2004年:イラン=イラク:97分:監督 バフマン・ゴバディ)
結果から書いてしまうと戦争や悲惨な状況をそのまま映し出しても、映画にはならない・・・ということがよくわかりました。
2004年の映画ですから、もうイラク戦争が描かれる訳ですけれども、監督が描いた、作り上げたものはきちんとした「映画」になっているのです。
アメリカによるイラク攻撃の数週間前のトルコ国境近くのクルディスタンの村が舞台になっていますが、子供達は大人に庇護されているというより、家や親があるのでしょうが、映画はそこを描かず子供は子供で集まって行動している様子を中心に描きます。
主人公になるのは、そのリーダー的な少年、「サテライト」というあだ名の少年。
この子が、かなりのしたたかもので、もし営業の仕事やらせたら成績優秀(?!)だろう・・・という口の上手さと行動力を持っていて、大人たちがすっかり当てにしているしっかり者なんですね。
このサテライト君、子供達を仕切り、大人と堂々と渡り合える利口さがあるのですが、同時にかなり生意気です。大人もこの口の上手さと生意気には勝てない、だからちょっと天狗になって調子に乗っているサテライト君の様子が微笑ましいような苦笑もののような・・・。
ところが、難民がたくさん入ってきて、親を亡くし、地雷で腕をなくした兄とまだまだ幼児の弟をつれた女の子を好きになってしまうサテライト君です。しかも兄は「予言」が出来るようで、先に何か起こることを言い当てるので、周りの子供たちが尊敬の念を抱いてしまう。
今まで皆が自分を頼っていたのに、お株を奪われそうなジェラシーな予感とかわいらしい妹への恋心から気持ち複雑なサテライト君・・・なんとか興味を引こうとあれこれ余計な世話を焼いてみますが、妹はかたくなで心を開かない。大人を言い負かす優秀営業マン少年も恋する少女にはお手上げ・・・でも、決してめげないサテライト君、さすが。
戦争の阿鼻叫喚の地獄のような映像があるわけでなく、声高に惨状を訴えるでなく、泣き叫ぶ人々でもって戦争の悲劇を描くわけでない・・・のに、実はとても悲惨な状況下のあれこれ、あくまでも作り手の視線は優しく、包み込むかのようです。
その優しさの奥底に光っている「反戦の気持ち」が解るのではなく伝わる・・・これはかなりの良識と自信と怒りがないと出来ないことですね。
バフマン・ゴバディ監督の前作『我が故郷の歌』も、クルド人のあれこれをユーモラスな視点で描いていましたが、この映画はつい最近起きた戦争を題材にしていても、サテライト君の飾り立てた自転車、妹の少女が抱く霧や水に表される幻想、抜けるような青い空・・・とても綺麗な映像の数々と決してかわいいでしょ、というあざとさのない素直だけどしたたかな子供達の描写でもって、かなりきついこともサラリとみせてしまう。
撮影はかなり厳しい、危険な状況下で行われたそうですが、映像はとてもクリアで透明感に満ちていて、余裕すら感じます。
そして、やってきたアメリカ軍を呆然と見守るサテライト君と友人。その後ろ姿には、怒りや哀しみではなく、寂しさ・・・のようなものを感じてしまいました。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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