酔画仙
Chihwaseon
2005年2月8日 岩波ホールにて
(2002年:韓国:119分:監督 イム・グォンテク)
実在の韓国19世紀の画家を描く・・・といってもこの主人公、チャン・スンオプ(張承業:雅号 吾園)という人は伝説の人で、その晩年は謎で金剛山の仙人になった、といわれている人だそうです。
監督によれば、これほど自分自身を投影させた映画は過去なかったそうで、スンオプの絵にかける情熱とその奔放な生き方、時代に流されていく姿を映画を長年撮り続けている自分に重ね合わせているのだろうと思います。
ですから、この映画はあくまでも映画のフィクションとしての主人公なのでしょう。19世紀の終わり、というのは韓国李王朝末期で日本や中国(清)からの圧力が迫り、国内でも暴動などが多発した激動の時代だったのですね。
映画は冒頭、墨をたっぷりつけた筆が紙の上を豪快に動く・・・一筆で水墨画を書き上げてしまうスンオプ(チェ・ミンシク)の姿から始まります。
もう、たくさんの水墨画・・・東洋画が出てきますが、その美術だけでも素晴らしいです。
また絵というものは、高尚でもあるけれど、金持ち貴族の所蔵趣味だったり、逆に民衆の心の慰めとなる・・・といった色々なとらえ方をされている中で、スンオプは自分のスタイルを確立しようとする気持ちと、金持ちの道楽に対する反感とを持ち、いい絵とはなにか、といった模索を常に考え・・・そして酒をあびるように飲み、国王から命令されても描きたくなければ、描かないという反骨者でもあります。
四季折々の風景がとても美しく、冬の凍った湖の上を飛ぶ鳥たち・・・自然を描写することを得意としたスンオプの目に映る自然はすべて自分の絵となるのです。
また、東洋画は、掛け軸など縦長の作品が多いため、絵をすべて見せるとなるとバランスが悪い。それで絵のクローズアップを多用して、描く者の視線を映し出すような工夫が随所に見られます。
スンオプは貧しい家の生まれながら、異例ともいえる宮廷画家にまで登りつめます。しかし、常に酒をあびるように飲み、妓生と呼ばれる遊女の間を渡り歩く。どんなに貴族に認められても、その気にならなければ絵は描かない。スンオプの絵は貴族だけでなく民衆の間でも人気になり、即、金になる絵なので、とにかく絵を描いて欲しいという人が絶えない。
自分の才能に溺れていないようでも、子供の頃から世話になった貴族、キム・ビョンムン(アン・ソンギ)だけが、スンオプの高慢さや技術だけに走っているスンオプの心境を見抜くことができる。そして、スンオプが素直に話を聞くことが出来るのも、キム・ビョンムンだけです。
才能ある人間のあり方、芸術の価値の見いだし方、そして政治や時代の流れ・・・そんなものを2時間にきちんと納めて描ききった監督はやっぱり重みのあるベテランという感じがします。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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