リバー・ランズ・スルー・イット

リバー・ランズ・スルー・イット

A River Runs through It

2005年3月30日  みゆき座にて(日比谷映画、みゆき座閉館記念名作上映会)

(1992年:アメリカ:124分:監督 ロバート・レッドフォード)

まず、モンタナの自然が素晴らしい。

そして、ナレーションの詩的なこと!

監督のロバート・レッドフォードは俳優として監督として良きアメリカを、人間の良識というものを体現し、表現しているようです。

この映画の時代は1910年代、まだまだモンタナは開拓の村から町へ変わろうとしている時代。昔を描きながらも、そこを通して見えるのは「良きアメリカ」を見つめようという視線です。「古き良きアメリカ」でないのです。

父(トム・スケリット)は教会の牧師で「厳格」、長男ノーマン(クレイグ・シェーファー)は「知的」、次男ポール(ブラッド・ピット)は「無垢」・・・ひとことで言えばこういう父子なのですが、父は息子たちに川での鱒釣りの楽しさを教え、長男は弟と一緒に荒っぽいこともする、次男は、明るく、愉快でもあるけれど、弧高で頑固な一面を持つ。

仲が良くても、兄弟はベタベタせず、自立して自分の道を行くし、性格は違うけれど、お互いを尊重する。そして父も息子たちを尊重する。

息子たちはどんなことがあっても父に敬意を払っている。

本当に見ていて気持ちいい人たちなのです。それは見かけが綺麗、ハンサムなのではなく内面のそれぞれの美しさが十分スクリーンから伝わってくるのです。

映画は後に詩人となった長男、ノーマンの語りで進みますからそのナレーションもとても詩的です。タイトルとなった A river runs through itはラスト近くに、ノーマンがつぶやくナレーションです。

個人的にとても好きなシーン。

学校がないために、子供時代は父が読み書きを息子に教えています。

長男に作文を書け、と言って、書いて見せると「長すぎる。半分に出来る。」

書き直して持っていくと「まだ半分に出来る」・・・そしてまた書き直していくと「これでいい。捨ててよろしい。」

長男は、作文を捨てて、弟と川へ釣りに走って行く・・・

ここで、子供が書いたものをベタベタと褒めたりしないで、的確な文を書かせて、あとは自由に遊ばせる。父は厳格な人ですけれど、子供を縛る人ではない・・・ということがよくわかるシーンでした。長男は知らず知らずの内に文章訓練を受けている訳でそのおしつけがましさのない姿が、後に長男が文学の道へ進むきっかけのような・・・そんな印象を受けます。

兄弟は、兄は東部の大学へ、弟はモンタナの大学へ行き、久しぶりに再会したときに、釣りに行こう・・・ということになります。

そして都会で学生生活を謳歌していた兄は、弟の釣りの糸さばきを見て、「ポールの釣りは芸術にまで達していた」と思う。

その時のポールの姿、川に立って無心に長い釣り糸を優雅に操っている姿が、本当に美しい、芸術のようです。

話としてはある一家の物語ですからあまり起伏はないのですが、こういう場面の数々に美しさと謙虚さがきらめいていて美しい映画だとしみじみ思います。

次男役のブラッド・ピットはこの映画のブラッド・ピットが私は一番好きです。本当に美しい。

明るくて、遊び人だけれども、ちょっと頑固な一匹狼風、破天荒な所もあって、賭け事や酒に熱中するけれども、真面目な時は真面目で、白のスーツというとても派手な格好も清潔感でもって着こなしてしまう。

俗物的な存在としてノーマンの恋人の兄が出てくるのですが、モンタナの生活には全く興味なく、ロサンゼルスでの自分の自慢話だけです。

都会でどんなに自分が目立っているか・・・自己主張ばかり。

恋人にせがまれて、ノーマンとポールは兄を釣りに誘うのですが、釣りなんかさっぱり。兄の目には川や山の美しさなど目に入らない。

自分と女と酒しか兄の目には入らないのです。

約束の時間に遅れてきた兄に、ポールが「モンタナでは、教会と仕事と釣りには遅刻はなしだ」ときっぱり言います。

ポールも遊び人ではあるけれど、真面目になるときはきちんとできる良識を持っているのです。兄はどちらかというと遊び人にはなれない真面目な性格ですが、弟の性格の他面さというのがこの映画の魅力でしょう。

撮影はアカデミー賞を取ったのですが、カメラマンは『ディーバ』のフィリップ・ルースロ。

モンタナの自然を、山の緑を、川の美しくて激しい流れをとても綺麗に壮大に切り取ってみせてくれる、とても贅沢な瞳の快楽。

この映画は前にビデオで鑑賞してとても感動したので、折角の機会、スクリーンで観たいと思いました。

そして今のアメリカ映画にないもの・・・を改めて体感できました。

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