リンダ リンダ リンダ

リンダ リンダ リンダ

2005年8月2日 シネセゾン渋谷にて

(2005年:日本:114分:監督 山下敦弘)

高校生の時の良さって、多分、高校卒業して何年もたって、わかるものなんだろうなぁ。

現役高校生の時は、勉強や試験や宿題、クラスのあれこれ、イベント、人間関係なんかで必死な所があって「良さ」を実感出来なかった私です。

ロックバンドを結成して、文化祭で演奏するっていうだけの物語、古くは大林宣彦監督の『青春デンデケデケデケ』があり、目標に向かって努力する高校生といえば『逆境ナイン』があって・・・同じ「高校生もの」でも、それぞれが違うテイスト、視点でそれぞれ質の高い「高校時代は良かったなぁ」映画が、堪能できるって所は、日本映画の幅広さだし、実感として楽しめるのも日本人ならではだし・・・日本映画に振り向かない日本人ってのは実は損をしています。

山下敦弘監督の世界は、温度は高くないし、かといって湿っぽくもない、さわやかというより醒めている、でも友情や情熱ってものを適温できちんとつくりあげる。

高校生時代はよかったなぁ~というのは、冒頭、文化祭の準備でにぎわう教室を人を探して、廊下を歩く姿を移動カメラで1ショットで映しているところで、長い廊下があって教室の窓が次々と並んで、そこを教室の中をのぞき込みながら歩いた・・・という高校生なら誰でもやることを的確に「思い出させる」ことに成功しているとみました。

しかし、今時の高校生はクールで自己主張が強い、恵をはじめ女の子達がべたべたせずにどちらかというと距離を保ちながら、バンドでブルーハーツを演奏する・・・練習する・・・そして文化祭という共同作業が暑苦しくないのです。

意見の違いで、分裂してしまった軽音楽部のバンド、ボーカルを韓国からの留学生、ソン(ペ・ドゥナ)に、決めてしまうあたり、またソンが了解してしまうあたりも、熱烈に誘う、または熱烈に希望するという風ではなく、かといって危機感もなく「これでいいよ」というあきらめに近い、情熱のなさ・・・が全編貫いているのですが、一緒にいる時間が長くなるにつれて、すぐにではなく・・・次第に・・・バンドの結束が強まっていくのを淡々と描いているところが、まだ若い山下監督ならではの雰囲気なんです。

高校時代の良さに気づいてしまった年長者が作ったなら、もっと楽しく、はずんで、青春ばりばり、ノスタルジィにひたったものになっていたと思います。

今時の高校生の姿を、誇張でなく、憧れでもなく、ノスタルジィでもなく、真横から見つめる事の出来るギリギリの年齢かもしれません。

それが、恵、ソン、望、響子の4人が、時間がなくて徹夜、徹夜で、つい所構わず眠ってしまう・・・とにかくごろごろと午睡をむさぼっている様子・・・そんな寝顔に現れていると思いました。高校生の時ってのはとにかく「眠い」のです。どこでも眠れるのです。元気な分だけ休息もいっぱいとれる・・・そんな若さのとらえ方がいいです。

音楽がブルーハーツということで、女の子が歌うブルーハーツっていうのは斬新なアイディアだし、しかもボーカルは韓国人のソンちゃん。

恵たちも最初は「ソンさん」と呼んでいるのですが「ソンちゃん」になり「ソン」という呼び方になります。

一人ぽつんと日韓交流発表会をしているソンが、仲間になってしまったことで、「わたし、がんばってもいいかな・・・」とおずおずと言う所とか、好きな人に告白・・・のシーンでも結局は、今は女の子同士の方がいい・・・恋愛というより「おつきあい」よりも女同士で楽しくやりたい・・・という雰囲気の出し方なんかは随所で上手いと思います。特に、ソンに告白するマッキーのシーンは、「恋に恋する恋気分」のマッキーが、一生懸命覚えた韓国語で告白しても、ソンは日本語で答える・・・というちぐはぐぶりが・・・またそれを窓の外から興味津々でのぞいている他の子たち・・・というのも恋愛以前の「おつきあい」という感覚がよく出ているのです。

高校生くらいの時の恋愛・・・なんてありえないかもしれない・・・「かっこいいから」「かわいいから」・・・なんとなく憧れて「告白」、お友達に毛が生えたようなもので、恋愛とはまだ呼べない段階の「好き」。そんな所がしっかり見抜けていてよかったです。

随所に笑ってしまう所があるのですが、特にペ・ドゥナが無愛想な表情で結構内心やる気な所(カラオケ自主練習)、恵の香椎由宇の気の強さクールさと内に秘めた優しさ、言葉少ないけれどしっかりしている望、いつもにこにこ、敵を作らないタイプの響子、と4人のキャラクターの描き分けも自然で、本当に自然発酵したような映画だなぁ、と思います。

そして迎える文化祭のステージ。みんながみんな盛り上がるのではなく、後の方では、立ったり、座ったりしてながめている子達もいる、という風景をきちんと見せているあたりも、わかってますねって感じです。

元気がよくて、はじけるような表現はあまり出していないのですが、映画の後味は元気がよくて、はじけている女の子たち、という印象が残るという高度なことを、さりげなくやっているこの世界、とても好きです。

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