蝉しぐれ

蝉しぐれ

2005年10月5日 ヴァージンTOHOシネマズ六本木ヒルズにて

(2005年:日本:131分:監督 黒土三男)

藤沢周平の時代ものというのは、あまりケレン味にあふれた、または激しい戦いを描いたものではない、というのは『たそがれ清兵衛』などと同じなので、この映画も情緒的なものを大事にしています。

東北の藩での身分の違い。身分の違いというのは江戸時代では絶対的なもので、そういうところがきちんとしていないとこの映画の登場人物たちの秘めた惑い、というのは理解できないのです。

また主人公の父が、お家騒動の犠牲になり、家が没落していくあたりも、住む家の違いとかよく出ていました。

今風、または西洋風に考えれば、「好きなんだから、つきあえば、結婚すればいいじゃない」ではすまされない、その前に立ちはだかる身分。

そして、これは、男と女の身分が逆転してしまう、という事が面白いのです。

男ですら、自分の生まれた家の身分から上になることはまずない、(落ちることはあっても)、しかし女性の場合はある道があるわけです。

市川染五郎は、『阿修羅城の瞳』とはうってかわって、自分の想いを秘めて、生きていく武士を演じていました。

剣術なども、稽古をはじめ、日本ならではの丁寧な描写で、これを外国が作ることは出来ません。

そして、走り方・・・武士というのは、着物の事もあるけれど、走り方というのがあって、上半身を上下させずに足を動かす・・・走り方で身分がわかるんだよ、ということを昔、教えてもらったことがあります。

この映画では、少年時代はともかく、大人になってからの武士達の走り方は、この足だけ動かして走る武士走法。

そんな所作のひとつひとつが、わかるかどうか。

しかし、最近の日本の時代劇はいつから恋愛物、になってしまったのかなぁ、ともちらり、と思いました。

国は違いますけれど、イギリス映画『日の名残り』の余韻と少し似ています。やはり身分不相応な事は、昔はそうそう出来る事ではなかったのです。

市川染五郎の幼なじみが、今田耕二とふかわりょうなんですけれど、浮いた感じはなく、お笑い芸人というのは演技もなかなかのものだと思いました。(他の映画の藤井隆や宮迫博之同様)

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