同じ月を見ている
Under The Same Moon
2005年10月3日 東映試写室にて(試写会)
(2005年:日本:106分:監督 深作健太)
男2人と女1人の三角関係もの・・・というと、やはりどれだけ1人の女が魅力的であるか・・・が中心になるケースが多いのですが、この映画は男2人に焦点をあてています。間に立つ女の子はあくまでも綺麗で、はかなくて、守らなければならない存在であって、私が、私が、と自己主張することがないのです。
心臓外科医のインターンである鉄矢(窪塚洋介)、孤児であまり喋ることがなく、絵が得意で不思議な能力を持つドン(エディソン・チャン)と心臓に疾患のある女の子エリ(黒木メイサ)の3人は幼なじみ。
しかし、ドンは放火の罪で服役中なのにドンが刑務所を脱走するシーンから始まります。
もうすぐ刑期が終わるのに、何故ドンは脱走したのか。
鉄矢はエリをつきあい、結婚するつもりなのに、いきなりドンが・・・に動揺。なぜなら、エリはドンのことをとても慕っているから。
鉄矢とドンが交互に描かれますが、鉄矢はきついインターンの仕事に疲労気味。エリの為に心臓外科医になろうとしているのに、外科医の現実に疲れてしまっています。
いくらドンと仲良くても、鉄矢にとってはドンは、恋敵になりそうな嫌な予感のする存在に変わってしまっています。
そんな「内心、ドキドキなんだけど、嫉妬で気が狂いそうで不安なんだけど、自分のプライドがそれを認めなくて虚勢をはっている男」というなかなか気持ち複雑な役を窪塚洋介が好演していました。
少女漫画の登場人物のような髪型、長くて美しい指、完全八頭身で細身で固い表情。
反面、ドンは自然体、イノセント。絵を描くことだけが、ドンのすべて。そしてエリと鉄矢の2人がドンにとってのすべて。
発音が上手く出来なくて、孤児で、子供の頃からいじめられて、いじめられて、いくら鉄矢が仲が良くても時にはドンに酷い仕打ちをしなければならない子供の世界。
しかしドンはいつでも、うなずいて許す。自分から犠牲になる、人を傷つけるならば、自分が傷つく方を必ずとる・・・鉄矢はそんな事が、自然に出来てしまうドンが実は羨ましくてねたましくてならないわけですね。
エリを救う事が出来るのは、ドンではないか、と正直思ってしまっているのだから。自分が外科医になろうとして苦労しているのに、エリは「何もできないはず」のドンを心配している。不公平ではないか。
神経質に嫉妬心を内心にくすぶらせている鉄矢と押しつけがましくなく世の中の汚い事をすべて受け入れる事の出来るドンと。
脱走したドンと鉄矢はなかなかすれ違いばかりだけれども、ドンは鉄矢にやっと会って素直に喜ぶのに、鉄矢は、自分の小ささを棚に上げて、ドンに八つ当たりしまくるあたり、窪塚洋介の声の裏返りと、悪意の全く見えない瞳をもつエディソン・チャンとよくキャスティングされていると思います。
当初は窪塚洋介が、ドンの役・・・ということだったのですが、鉄矢の怒り、焦り、嫉妬心・・・そういう深さをやってみたい・・・ということで、鉄矢になったそうで、正解だったと思います。
エディソン・チャンもイノセントな表情に、丸刈りにランニングシャツ、絵を描きながら放浪・・・もう裸の大将状態。
言葉がつたない、東京の街も慣れなくて、人になかなか話しかけられなくて、でも無垢な表情がキュートでって、原作漫画(土田世紀)ではドンが主役だった、というのはうなずける話でした。人間の心理・・・嫉妬、悪意、恐れ、怒り・・・そんなものを色々な手法で見せてくれる。
監督は『バトルロワイヤル』などの深作健太。
ドカドカって殴るシーンとか妙にリアルな音響を大切にしたり、爆発音なども迫力ですが、撮影は日本の山の緑や自然をとても綺麗にとっていました。
話の全体の流れは、後半、ちょっと途切れがちになりますが、(ここで終りだろうと思うと、まだ先に続いての繰り返し)、ドンの周りに自然と集まる人々、山本太郎、松尾スズキ、岸田今日子・・・それぞれ個性を出していたのが印象的。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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