愛より強く
Gegen Die Wand(Head-On)
2006年5月10日 シアターN渋谷にて
(2004年:ドイツ:121分:監督 ファティ・アキン)
第54回ベルリン国際映画祭 金熊賞、コンペティション部門批評家賞受賞
この『愛より強く』という日本語タイトルだけだと、私は多分、この素晴らしい映画を見逃してしまったでしょう。
『愛より強い旅』も、なんだろう、このタイトルは・・・・と観てから思ってしまったのですが、相変らずこの手のタイトルにしてしまうのですね。
たまたま時間が丁度良かったので、観てみよう・・・と何も知らずに観て、大衝撃を受けました。大袈裟かもしれないけれど、この映画を観た後、ファティ・アキン監督の2000年の映画『太陽に恋して』がレイトで上映されていると知り、即座に観る事にしたのです。
ファティ・アキン監督自身がトルコ系ドイツ人だということで、この映画は、前半ドイツのハンブルグ、後半、トルコのイスタンブールが舞台となります。
映画の冒頭は、川辺でトルコ系のバンドがトルコの伝統音楽を演奏、女性が『イディル・ウナーの歌』という歌を歌います。
これがエキゾチックで、まず、ぐっときます。
このシーンはは、映画の合間にミュージカルのようにインサートされ、悲劇の歌を歌い続ける。
舞台はドイツのハンブルグ。妻に先立たれてもう自堕落な生活をしている40男、ジャイト(ビロル・ユーネル)
もうこの自堕落ぶりっていうのが凄いです。うわ、汚い。部屋汚い、さすがにあんなに煙草の吸い殻を溜めはしません。酒びたりでビールの缶だらけのアパート。若い頃はパンクロック青年だったらしいのですが、40代になって仕事といえば、ロッククラブの清掃係。
ぼさぼさの髪に、無精ヒゲ。近寄ったら臭いそうな汚い中年男。マリファナを吸い、短気で、気むずかしくて、わがままで・・・どうしようもない生活をしている。
ジャイトは車の運転をしていて発作的に自殺をしてしまう・・・・しかし、死ねなかったジャイト。
精神病院に入れられて、むす。としている時に、ある女性から声をかけられる。
「あなた、トルコ人ね。私と結婚しない?」この時のジャイトの顔がいいですね。「・・・・・・・・・!!!!なに~~~~っ?!」
この女性、シベル(シベル・ケキリ)はまだ25歳。しかし、自殺未遂をして病院に入っている。ジャイトは、シビルがリストカットした腕を見て、即座に「狂言自殺だろう」と見抜きます。
シベルは、ドイツのトルコ人家庭、厳格なイスラム教の家庭が息苦しくてならない。どうにかして家を出たい、その為に自殺未遂をして、親から離れたい、それがダメなら、「トルコ人男性だったら誰でもいいから、偽装結婚して家を出よう」
死にたいのに死ねなかった男と自由になる為に自殺未遂をする女。
しかし、お互いの利害関係は上手い具合に合致して、結婚。ヒゲをそり、髪を整えていくうちに、ジャイトってとても素敵な人になるのです。
シベルは家事は家のしつけが厳しく、料理も掃除も完璧。しかし、当初の目的である「自由に遊びたい」を実行する。
ジャイトは、ジャイトで外で情事をしている。いざこざは絶えないけれど、どうにか偽装結婚は成功したかに見えたのですが・・・・話は急展開する。
偽装結婚したが故に起こる不幸。また、偽装とはいえ一緒に暮らしている内に、お互いに惹かれていく2人。
しかし、2人は引き裂かれる。シベルは、こんな男と結婚した女は娘ではない、と絶縁されイスタンブールへと向かう。
離れてみて、やっとお互いが必要なのだ、とわかっても、シベルは待つ事が出来るのでしょうか。
そんな危うい、脆い人間関係の細い絆を大切に大切に、映像にしているような繊細さとハンブルグとイスタンブールという2つの都市、男と女という2つの関係、親と子という2つの関係・・・大人でなくてはわからない人生の苦渋というものを、実に上手く物語にする。
この映画は順撮りされたそうですが、出会いによって変わっていく2人。本当に別人のようになっていくのですね。
そして、ラストはシベルとジャイトのそれぞれの選択。
映像はとても綺麗なんです。都市の風景や、ジャイトとシベルの変化していく表情などをとても丁寧に映し出します。
私は、この骨の太いようなストーリーをとても繊細に映画にしているという所がとても好きです。
重くて、悲しくて、でも、これでいいのだという納得のいく余韻が、胸に残り、その余韻で胸がつまりそうになりました。
ベルリン映画祭で、18年ぶりにドイツ映画がグランプリをとったのですが、まだまだ30代のファティ・アキン監督。自分のルーツ探しよりも、移民がたくさんいるドイツの街で、それぞれの故郷のしきたりを守っている、または、自分の中に祖国を持つ・・・そんな姿を追う大人です。
この映画の脚本は、本当に、監督自身がガールフレンドから偽装結婚してくれないか、と言われた事から、始まったそうです。
この映画のリアルさというのはそこら辺からもうあるのですね。
この映画は、どちらかというと苦渋の映画なのですが、病院にいて、なんとしてもビールが飲みたい・・・そんなジャイトが夜、病院の監視の建物の下をごろごろ転がって抜け出す・・・なんていきなり出てきて笑ってしまう。ユーモア精神もちらりちらりと見える。
ファティ・アキン監督、一作観ただけで、ファンになりました。一目惚れ。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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