奇跡の夏

奇跡の夏

Little Brother

2006年7月19日 日比谷シャンテ・シネにて

(2005年:韓国:97分:監督 イム・テヒョン)

 先日、子供の多い試写会で、開場を待つ前にトイレに行きました。大きい会場なのでトイレも行列です。

私の前に並んでいる、推定9歳の女の子。この女の子が、もう、全身で「トイレを我慢している」という様子でした。

身を左右にねじってみたり、足をクロスさせてみたり、前かがみになってみたり・・・もう、これは明らかに非常事態です。

周りの大人達も、あまりの様子に「先に入りなさい」とゆずろうとするのですが、その女の子は「・・・いいです」と蚊の鳴くような声を出す。

もう、不憫やら、もし、目の前で我慢できずに・・・になったらどうしよう、と私は親でもないのに心配してしまいました。

 この映画で、思い出したのはその実に子供らしいトイレの我慢をしていた女の子です。

主人公のハニという少年を演じたパク・チビンは、この映画の演技でニュー・モントリオール映画祭で主演男優賞を受賞した、というのがこの映画の話題です。タイトルのような奇跡が起きる夏の話ではないのですが。

 この映画は実話なのですが、兄が、重い脳腫瘍に倒れた9歳の弟、ハニがどう変化していくか・・・というもの。

よい子というよりも普通にいる悪ガキで、兄を思いやるよりも、事の重大さになかなか気がつかない・・・という実物大の演技が、もうドキュメンタリーのように自然なんです。むしろ、ドキュメンタリーの子供の方がカメラを意識しているかもしれない、と思います。

 学校の教室では、いたずらし放題、はしゃぎ放題、甘やかされているのか、結構わがまま放題な弟ハニのあれこれ。

やはり男の子というのは、下ネタに敏感に反応。そこら辺を綺麗事に描いていないのが良かったですね。

勉強は嫌いで、塾をさぼってテレビ・ゲームに熱中、テレビで見るアイドル歌手の真似などは熱心にする・・・そんな様子を可愛いではなく、「こんな子いるよね」という大人が半分ため息まじりに言うような、悪い事ではないとしても「ちょっと困ってしまう」といういたずらぶりがとてもリアルに感じられます。

 だから、兄が重病とわかり両親の心配が兄ばかりいくと、兄の心配よりも、自分がないがしろにされることに怒る。

病気の兄というのが、ちょっとぷっくりしていて、どちらかというと弟の落ち着かないキョロキョロぶりよりは、おとなしい。

病気にも耐えるし、病院でも健気です。病気を背負っている演技という点ではこの兄を演じた子も大したものです。

この兄だけを描いていたら、もう語り尽くされた難病ものに流れてしまう所、健康で訳わからないまだ幼い弟の目から描いた、というのがこの映画の特徴です。

 病院で出合う兄と同じ病気の子供たち。最初は、ハニは自分の健康を見せつけるような事をするし、どんなに親が悲しんでいても、自分勝手が先に立ってしまうのです。しかし、自分と同じお調子者タイプの病気の男の子と出会ってから、葛藤が始まります。

ハニは、やはり、そうそう天使のような子供にはならない。子供は天使ではないのです。大人からみたら、天使のようであって欲しいのかもしれませんが、この映画はそういう「天使のような子供」を一切出さない。子供ならではの、行動、考え方、欲、といったものを描く。

今までにない子供らしさの出し方がとても斬新でした。

 冒頭に書いたトイレを我慢していた女の子は、見事、我慢し、順番通りにトイレに入り、事なきを得ました。

必死の形相でトイレを我慢している、リアルな子供の動作がとても新鮮に思えたのです。

この映画もそういう映画でした。

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