ゲオ・ロボトミー

ゲオ・ロボトミー

Geo-Lobotomy

2006年8月24日 渋谷 シアター・イメージフォーラムにて(韓国インディペンデント映画2006:Bプログラム)

(2006年:韓国:100分:監督 キム・ゴク、キム・ソン)

 去年の韓国インディペンデント映画2005、『資本主義党宣言ー万国の労働者、蓄積せよ!』で強烈なパンチをくらったキム双子兄弟の最新作。

相変らず、「普通の人だったら引いてしまうようなタイトル」(それは短編集『事実と反論』の中の一編『政党政治の逆襲』も同じ)をつける所に、この兄弟の挑戦的な姿勢が見えますね。

しかし、映画を観てみると、そんな青臭い主義主張だけの声高な映画ではなく、むしろ、とほほ感の漂う若者群像だったり、今回の『ゲオ・ロボトミー』では、ロボトミー手術が出てくるわけでないホラーコメディの要素が強い。

相当、この2人は自分たちに自信があるのだと思います。でも、その自信が鼻につくような事がないのは、どこかとほほなユーモア、脱力してしまうような気の抜き方が、上手くちりばまられているからだと思います。

かわいい哲学者さんたち。

 この映画で舞台となるのは、荒廃した炭鉱町、という設定なのですが、明かにどこかのさびれたスキー場。ここでもう笑ってしまうのですが、よくあるのが、スキー場にぽつんとある大きなホテル。

それをこの映画では、謎の企業、トゥモロー社の経営するカジノとしています。明かにホテルの送迎バスなのに、「カジノ行のバス」となっています。

 『資本主義党宣言』では、金が入れば入るほど、消費が増していくのを戯画的に描いていましたが、今回は、「いかにスピーディに金を儲けるか?」

すぐに富を得る方法として、まずカジノ。そして、もう一つの設定は「人間は生まれつき金歯が生えている」歯の中にかならず金歯が混じっているのだ、というかなり不思議な設定ですが、お金を得る為のもうひとつのスピーディな方法は、この金歯を売ることです。

藪医者みたいな金歯商人が、白衣を着て、頭に炭鉱ヘルメット、手にはペンチで、次々と金歯を抜いていく。

 しかし、何故か生まれつき金歯を持たない人間というのも、たまにいて、主人公の中年男はその「生まれつき金歯を持っていない」貧しい男。この男が巻き込まれてしまうトゥモロー社の陰謀。

このトゥモロー社の営業社員が、にこやかな笑顔がばっちり決まった一見さわやか好青年。しかしやることはあくどい。とことんあくどい。

もう、仕事もなく、ただただ金が欲しいだけの、中年男は、この罠に簡単にはまってしまう。そして次々と起こる殺人事件。犯人は誰?

 西洋のことわざに「銀のスプーンをくわえて産まれてくる」というのがありますが、歯が全部金歯の人は、働く必要なんてないのです。

どんどん抜いてははえてくる金歯を売って暮らせばいい。しかし、金歯をもたない人間=労働者に尊厳はあるのか?

映画のナレーションは、この中年男の亡き父が、息子に語りかけるという方法をとっていて、このナレーションがまた、いいですね。

映画の中で起こる事を見守る第三者が、亡き父のナレーションです。息子が騙されそうになって、「おいおい、スーツを着ている奴には気をつけろよ!!!」などと忠告しても、映画の中では、忠告なんか誰も聞かない。寂しい亡霊の声。迫り来る殺人鬼の姿・・・といっても、黄色い長靴に黄色いゴム手袋って所が脱力ものの殺人鬼です。怖いけれど、可笑しい。特撮など使わないで、面白い設定を作り出しています。

 そして最後に主人公は、ソウルに出ます。そこでぶちあたってしまうのが「ベネズエラってどこ?」

そして、殺人鬼もちゃっかりついてきて、ソウルの人混みにちゃっかり混じっていたりします。そんな、あっという驚きがあちこちにちりばめられているけれど、その底に流れているのはやっぱり「資本主義に疑問を抱いている頭のいい若者」なのでした。

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