Rain Dogs(原題)
Rain Dogs(太陽雨)
2006年10月26日 TOHOシネマズ六本木ヒルズにて(第19回東京国際映画祭)
(2006年:マレーシア:94分:監督 ホウ・ユファン)
テンポはまるで、ホウ・シャウシェン監督の映画のような静謐さと安定感、いつも曇り空、雨・・・テオ・アンゲロプロス監督の映像美、そして無口な少年の横顔は、北野武監督映画の憂鬱感・・・そんなものを感じさせる映画。
とても映画祭的な映画だと思います。つまり、観客に何かを訴える、楽しませる、泣かせる・・・そういった喜怒哀楽に直接的には触れない手法で映画を流れるように紡ぎだす、娯楽というより、観ている者に空気を送るような、そんな映画です。
だから、ストーリーもシンプルだし、出てくる人も少ない、話に起伏はあまりない・・・観客に媚びない姿勢をとりながら、しっかりとした映像、そして映画というものを作り出す・・・という点では、キム・ギドク監督の映画にも通じるところがあります。
そしてこういた映画も、アンディ・ラウがプロデュースして、のFFCで作っているということで、FFCの映画の分野の広さというのも感心します。
この映画はいきなり始まって、説明がないまま・・・30分位して、やっとタイトルが出ます。
監督はこのタイミングをとても大事に、よく考えたそうですが、確かに、「さぁさぁ、これから映画が始まりますよ!」という姿勢のない映画だから、観客はだんだんこの映画の話ではなく空気に染まっていくのです。
都会に出た兄を探しに来た弟。しかし、兄はやさしいけれど、喧嘩に巻き込まれて死んでしまう。母の元に戻っても、父がいない家庭の空気はなんとも息苦しい。弟はマレーシア北部の漁村に住む、おじの家に行くことにする。
そこで出会う、おじの家族たち、そしてその周りの人々。従兄弟にあたる小学生の男の子は、勉強があまり好きではないので、近所の女の子に勉強を教えてもらっている。その女の子とその姉の2人の少女との淡いつながり。
この映画では、人々の関係を濃く描きません。少女の姉は、ちょっと不良っぽい彼氏ともめている。喧嘩をしても、それを遠くから少年が無口に眺めているだけです。でもだんだん、この姉妹によりそうようになってくる。
主人公の少年はとても無口であまり主張がないように思えます。空はいつも曇り空。雨が降り、そして行き場のない少年はひとり漁村にたたずむ。
従兄弟の家庭教師の女の子はとてもさっぱりとした女の子で、少年とは恋、というよりも友人のように接する。
姉と仲がよくて、いつも一緒。母とはどうもぎくしゃくしている少年とは違う微笑ましい仲の良さ。
そして、まだまだ先がどうなるのか、わからない少年の漠然とした未来のような空の雲の鉛のような色。
空が暗くなって雨がふり、その雨が止むと、太陽雨・・・少しさした太陽の光で虹がでる。少年の心にあくまでも、曇り空をバックにした淡い虹が出る。そんな風景を、固定カメラでじっくりとらえ、ゆっくりとではありますが、流れるようなテンポで、何もないところから、何かを浮かびあがらせるような、そんな色合いが、観終わった後、時間が経てば経つほど、じわじわと胸に染みてくる・・・・・こういう映画は観る側に色々なものを提示していると思うのです。
タイトルのRain Dogというのは特に誰かをさした言葉ではなく、このタイトルだったら色々な映画がたくさん作れるだろうと思ったと監督が言われていましたが・・・そこから観る者が無数のものをすくい取ることの出来る映画、Rain Dogs・・・そして副題の太陽雨。
映画の内容ではなくて、この映画の質をあらわしているようなタイトルです。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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