考試

考試

The Exam

2006年10月23日 渋谷 オーチャードホールにて(第19回東京国際映画祭)

(2006年:中国:104分:監督 プー・ジェン)

コンペティション作品

 映画の前に舞台挨拶があり、監督が「この映画は忍耐を必要とするかもしれません」と言われました。

それは、何故か・・・この映画は、実在の人物が実際に演じているものであるため、俳優さんは出てきません。

映画のほとんどが、ロングショットで、顔のアップというのはないのです。そういう顔の表情が見えない映画は絵画的、写真的ではあるけれども、「おもしろい」とか「泣ける」とか感情に訴えるにはちょっと難しい映画が多いのは確かです。

 しかし!私はこの映画に泣いてしまいました。

特にラストの10分くらいのロングショットは、涙、涙でした。もう、いじらしくて涙が出るのです。

 中国の東北地方の湿地帯のある村。そこは、湿地帯に来る鶴が有名で観光客が来るような所です。

そこで、20年間、小学校の先生をしている由先生。女の先生で、結婚し、娘2人は町で大学生だったり、働いていたりして、夫と白い猫と暮らしている。

今のクラスは5年生、3人と2年生、2人、すべて男の子です。

のんびりとしているけれど、反面、湿地帯の為、車も入れず、バスに乗れる道までは、えんえんと湿地帯を歩かなければならない。

電気も自家発電です。町に出るのに8時間もかかり、電気も通っていない・・・なんて若い娘たちは町の暮らしの方がいい。

 中国には統一試験という、全国の小学生の一斉テストがあり、由先生は、教育熱心であり、教えるのも上手い。20年間、一人として脱落者を出さずに子供たちを教育してきた。

統一テストでは、過去、9回も全国最優秀賞をとっています。

 てくてくと湿地を歩いて、試験問題を取りに行く先生。ところが、試験が終わったら・・・・・子供たちの回答はすべて間違えているのです。

由先生は納得いかない。何故?と子供たちに聞いても、ぐねぐね・・または、自転車でばぁ~~~っと逃げてしまう。もう、お母さんのひとりなんか、「なんで、点数悪いのっ!」と棒で子供の尻を、たたくのを、まぁまぁ、となだめる場面も。

もちろん、試験は良い点数をとるにこしたことはないし、由先生の希望も生徒が良い点数をとることなのですが、では、「試験」は点数いいだけが問題なのか?という発想、着目点にも驚きます。

 授業の最中に生徒のお父さんが、「帰りに馬を連れて帰るように言ってねー」なんていうと、放課後、2年生の男の子2人がこっそり、馬を連れて、ひきずりまわしている。馬を一生懸命探す先生。

冬枯れの高い葦の葉がしげる湿原を長靴はいて、てくてく歩く先生。

そういった姿がすべて、自然と調和した一枚の絵のような美しさ。特に、撮影で特別な撮影、特撮などせず、自然光の中の自然の姿を綺麗に映し出します。

そして、そこに暮らす人々の思惑がまた、絵画の中の人のようでありながら実にいじらしいのです。

由先生も、私、大変なんですよっ、一生懸命なんですよっ!という主張はなく、ごく自然に今まで通りに、先生をしているだけという姿。

 子供たちを、町に連れて行くと、子供たちは先生の周りをぎちっと固まって、団子が歩いているようなほほえましさ。

欲しいもの買ってあげる、と言われて、うーん、(冬なのに)アイス・・・とか。生徒一人一人の演技といより、5人の子供の団子状態が、そこはかとないユーモアと可愛らしさを出しています。先生と生徒の間にある距離の出し方なんて上手いです。

 試験の謎が解けたあとからの、人を慕う素直ないじらしさ、がなんだかんだ言って贅沢している私には、とても新鮮に見えました。

先生、先生ときゃあきゃあ、言う訳ではないのですが、皆、由先生が好きなのだ、というシンプルな気持がものすごくストレートに葦原を歩いていく子供たちの姿に感じられるのですね。もう、この辺は、胸がつまって、喉のあたりが熱くなり、涙が出てしまいます。

「好き」と「嫌い」というのは、一番、ベースとなる気持です。その「好き」という気持をこれほど、美しく出した映画はないと思います。

あ。思い出しただけでも涙がでる、ラスト。

0コメント

  • 1000 / 1000

更夜飯店

過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。