接吻
The Kiss
2007年11月22日 有楽町 朝日ホールにて(第8回東京フィルメックス)
(2007年:日本:108分:監督 万田邦敏)
小池栄子は怪物女優だ、と前々から書いていたのですが、とうとう主演として映画が出来てしまいました。
やはり、普通の人を演じても、普通じゃない、ですね。
監督も認めていたことですが、この「とりつかれたようになる女性」は、フランソワ・トリュフォー監督の『アデルの恋の物語』をヒントにしているそうです。
うーむ。日本のイザベル・アジャーニは、小池栄子だったのか。
そしてこの映画は、死刑囚(豊川悦司)、弁護士(仲村トオル)、そして、死刑囚の存在を知って異様に興味を持ち迫ってくる女性(小池栄子)3人の演技合戦ともいえます。
事務の仕事をしている京子(小池栄子)は、職場では、どちらかというと「いいように利用されてしまう」損な役回り・・・的な存在。
でも、文句も言わず、黙々と働いている。
そんな時、無差別とも言える、一家殺害で、坂口(豊川悦司)が逮捕される。
弁護士(仲村トオル)が、何を言っても答えず、黙秘を続ける坂口。
テレビのニュースで、坂口の存在を知った京子は、事件と坂口に興味を持ち始め、自力で調べ始め、法廷へも顔を出すようになる。
何故、坂口という男に京子はこんなに興味を示すのか・・・世間から見下され、馬鹿にされ、足蹴にされてきた者同士でしょう!と面会までする京子は迫る。
また、坂口にめんめんと手紙を書いて、差し入れをする。仕事も辞め、刑務所の近くに引っ越し、面会を続ける。
その様子が、「(自分を好きになったと思いこんだ)男につきまとい続けるアデル」なんですね。
小池栄子のとりつかれたような目が怖い。
普段は表情を見せないのに、坂口の事になると目がらんらんとする。
自分は不幸だ、と思った瞬間、このひとも不幸だ、と同じ波長を感じることがあるかもしれません。
同じ痛みを分かち合う、という言い方も出来るのですが、この場合、京子と坂口には直接的な「共通点」は皆無に等しいのに、京子という女性は、波長をつかんだら、離さないのです。
あ、この人はわたしと同じだっ!
恋とも違う、執念のようなもので、京子は初めて自己主張というものをしたのかもしれません。
過去や家庭の事など、出てきませんが、東京郊外に1人暮らし。恋人がいる様子もなく、探す様子もなく、友だちが多いとも思えない、孤独を選んだ女性。
家はきちんと片づいており、自分で自分を律するような性格なのではないでしょうか。
だから、決壊してしまった気持を抑えることが出来ない・・・のを小池栄子、好演というより、怪演するのが見所。
とうとう、京子は、坂口に結婚してくれ、と婚姻届を出す。
それを、どうにか止めようとする弁護士。
坂口がとった行動・・・は、理解を超える異常なもので、法的に罰せられるものだけれども、京子のとった行動はやはり理解を超える異常なものでも犯罪ではありません。
罪にぶつけられる罪のようなもの。
映画は、上手く省略している部分と台詞で語ってしまう部分が、二極になってしまっているような部分がありましたが、映画の流れとしては、サスペンス度がとても高く緊張感が途切れません。
そして、最後に残される、罪と罰の行方。
小池栄子も凄かったけれど、もうひとり、怪物的だったのは、何も言わずに黙っているばかりの豊川悦司。
難しい役どころを軽々とクリアしているように見えるところ、さすがです。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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