最後の木こりたち

最後の木こりたち

Timber Gang/Mu Bang

2007年11月24日 有楽町 朝日ホールにて(第8回東京フィルメックス)

(2007年:中国:90分:監督 ユー・グァンイー)

コンペティション作品

 このドキュメンタリー映画は、監督の故郷である黒龍江省の山岳地帯での、2005年、最後の森林伐採に一冬、山にこもる木こりたちに、監督ひとり、カメラを持って、一緒に過ごしてその様子を撮ったものです。

音楽もなければ、ナレーションもない。ひとりで撮っているから音響も時々途切れたりします。

 日本のドキュメンタリー『選挙』を思い出したのですが、監督ひとりがカメラを持って、選挙活動についてまわる・・・しかし、その距離の取り方はあくまでも第三者が「観察する」という距離を保っていました。

 この映画では、感じられるのは木こりたちへの思い入れです。

国の方針で、森林伐採が禁止になる最後の木こりたち。

夏は農作業、酪農で、雪の多い冬は、山にこもって森林伐採。働きづめ。

それは大変過酷な労働です。

山奥だから、車は入れない。

人間が木を切り、それを、馬が運ぶのです。

だから馬というのもとても重要な仲間なのですが、過酷な労働で馬も倒れていく。

一頭の馬は高くて、一冬の労働収入に価するくらい、高価なものだそうで、だからこそ、木こりたちは馬を大事にする。

しかし、雪の中で、ぐらぐらとゆれる木材を、馬が運ぶ姿は、欧米の動物愛護協会の人が見たら、悲鳴をあげて、抗議活動に駆けつけるのではないかと・・・思うくらい、過酷。

 木こりたちと一緒に過ごした・・・という事で、カメラに写るのはカメラを意識した人々ではなく、力仕事を精一杯やって、酒を飲んで、山ごもりの肉体労働をする、体力・健康勝負の男たち。監督密着取材の賜っていう映像の数々です。

 誰が主役というポイントはあてられないのですが、ひとり、口がきけない男の人がいて、なんとものんびりした顔つきの人がいます。

手話で嬉しそうに話すのは、町に好きな女の子がいて、大学を出ていて、字が書ける。メガネをかけた可愛い子なんだよ。

お金を貯めて、結婚して、子どもは3人欲しい・・・なんて話すのですが、どうもそれは本当なのか、願望なのか・・・のんびりしたおっとりと笑う青年に、おいおい、なんてちょっと言えなくて、「うんうん、そうか、そうか」と周りも、そんな夢のような話を聞いている、というところなど、ただの肉体労働者でしょ・・・という意識は感じられず、愛着を感じるのです。

 しかし、伐採が禁止され、木こりたちは仕事を失う。

これから、どうするのか・・・という問題提示をして終わります。

環境問題から言ったら、森林伐採は制限するものなのかもしれないけれど、しかし、それで働いていた、収入を得ていた人々まで、環境問題を叫ぶ人は考えているのだろうか・・・そんな問題提示をしています。

 監督は、もともとは版画家なのだそうで、でも今は、映像に興味を持ち始めている、と話されていました。

芸術というものと、労働というものを同じ線の上で、見ている人なんだなぁ、と思います。 

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