資本主義党宣言ー万国の労働者、蓄積せよ！

資本主義党宣言ー万国の労働者、蓄積せよ！

Captialist Manifesto:Working Men of all Countries, Accumulate!

2005年3月10日　渋谷シアターイメージフォーラムにて（韓国インディペンデント映画２００５）

（2004年：韓国：115分：監督　キム・ゴク、キム・ソン）

このタイトルすごいでしょう。引きますね・・・私も引きました。だから当初は観るリストに入れていなかったのですが、映画祭の時間の都合で観たということなんですけれど・・・

発想、撮影方法、音楽の使い方・・・とても独特で、ひとつの「お話」としてもとても興味深いものでした。

一見、ふざけているようにしか見えない事をぐるぐるつなげて、自分たちの主張に持っていってしまうところなんか感心してしまいました。かわいらしい経済哲学者さんですねぇ。キム双子監督。

出てくる人たちは、①チンピラの使いっ走りをしているとほほな青年、ブジャ。②ブジャの兄貴3人。③援助交際をしている女子高生、ナム・プジャ。④博打になると何もかも忘れてしまう娼婦、ミス・キム。

この映画ではいくつかのシーンがしつこく執拗に繰り返して出てきます。プジャが花札をしている兄貴3人のところに「ただいま帰りました」という所。プジャが「いい娘がいるよ・・」とぽん引きのおばさんに連れて行かれるホテルの部屋に入る所。プジャは、アダルトビデオを街頭で売っているのですが、それを売っている所。ブタの貯金箱を買う所・・・なのですが、この繰り返し、よくよく観ると毎回微妙に設定がずれています。ず、ず、ず・・・・とずれたことの繰り返しがだんだん可笑しくなってきます。

まず、この映画の中ではお金はただの白い紙です。また、白い紙が貯まるとお金の代わりとなるのがブタの貯金箱らしい。でもその貯金箱は道端でおじさんが売っていたりします。資本主義を皮肉る時にまず貨幣設定をめちゃくちゃにしてしまうのです。

だから、お金は「一枚、二枚・・・」という言い方で、実際それが安いのか高いのかさっぱりわからなくしています。

兄貴たちが花札で賭けているお金も、たばこの値段も、援助交際の値段も高いのか、安いのか・・・さっぱりわからない。

道端で買えるもう1つのお金、ブタの貯金箱も（最初は赤、でだんだんカラフルになってくる）毎回値段が、変わっている。

プジャが売るアダルト・ビデオも高いのか安いのかさっぱりわかりません。

プジャは帰ってくるたびに花札に熱中している兄貴から説教をくらいます。「働かないと立派な人物にはなれない。金を稼がなきゃならない！」といいつつも兄貴たちはひたすら花札をしています。プジャはなんとか稼ごうとアダルト・ビデオをＣＤにしたら？またＣＤと一緒にビデオをおまけにつけたら？・・・と頭をひねって、だんだん飛ぶように売れるのですが、稼いだお金は即、兄貴たちとの花札博打に消えてしまう。

援助交際している女の子、ナム・プジャも稼いだお金は即、他の女の子にかつあげされてしまって、お金は残らない。

ブタの貯金箱がいくつもいくつも出てくるけれども消えていってしまう。もう、最後には大きなビニール袋にカラフルなブタの貯金箱背負って出てくるのには笑ってしまいました。どんなにお金を稼いでも、即消費に回ってしまう。それでも、タイトルは「蓄積せよ！」という呼びかけだから皮肉です。

このプジャ役の青年は映画監督さんらしのですが、なんともいえないトホホ感が、ゆるいのですね。一所懸命な真面目さもないけれど、威張るようなことも出来ない小人物ぶりがとても可笑しい。せこくてお人好し。

歩いている所に、ちゃかちゃらら～～～んとマーチのような音楽が流れて、それがちょびっとストップモーションになって、音楽も動きにあわせて止まるとか、細かい、トホホ感の出し方が面白いです。また、3人の兄貴たちの姿を撮るカメラが、時々ブレますが・・・これも最後にオチがちゃんとついています。とっても意外なオチでびっくり。

需要と供給のバランスの問題、蓄積すればするほど、欲も増えていくという問題、まぁ、経済学を学んでいる人が観たら、また、別の見方が出てくると思うのですが、監督のキム・ゴク、ソン兄弟は今26歳。この映画を撮っているときはもっと若かったでしょう。若者らしい、青臭い思いこみというのがなくて、ちょっと距離を置いて見つめている2人のかわいい哲学者さんは、きっととても頭がいいのだと思います。頭の良さがちりばめられていて、最後に"I hate Capitalism!"とば～～～んと字幕で出す自信が、いやらしくなくて、逆にトホホって笑ってしまう世界、とても好きになりました。