四日間の奇蹟

四日間の奇蹟

2005年6月29日 新宿トーアにて

(2005年:日本:118分:監督 佐々部清)

佐々部清監督というのは、描くものは色々でもその底辺には常に社会性というものを必ず映しだして見せるのです。

『陽はまた昇る』は高度成長期の日本のビデオ開発に骨身をけずる開発者達の仕事への異常なほどののめりこみの姿と高度成長期の日本経済のあり方。(でもプロジェクトX映画)

『半落ち』では、自殺幇助と、安楽死、白血病のドナー提供の問題(でも犯人捜しのミステリ映画)

『チルソクの夏』では、韓国の高校生と日本の高校生の淡い恋の間に立つ根深い人種問題(でも恋愛青春映画)

そしてこの『四日間の奇蹟』ではサヴァン症候群という脳の障がいを持つ少女、千織とそのピアノの才能を見いだして養女にする、指を怪我して挫折したピアニスト(吉岡秀隆)と再会したかつての高校の下級生、岩村真理子(石田ゆり子)。

死に直面してしまった真理子が四日間だけ千織の体に憑依する、という奇蹟が起こるというファンタジー恋愛映画。

しかし、ここで常にこの映画を通して描かれているのは真理子の直面した死であり、千織をはじめ明るい未来が約束されない事への無念のようなものです。

如月は指を怪我しなければピアニストでいられた、高校の時憧れていたとはいえ、無念を胸に抱きながらも施設で働く真理子、治る見込みのない千織。

舞台となるのも、脳梗塞など脳血管障害で、リハビリ生活をする人々の海辺の施設。

脳血管障害の完治の見込みというのは少なく、ここに生活する人はなにかしらの「無念」の気持ちを抱いているようです。

しかし、映画は透明感にあふれていて、奥ゆかしく、そしてファンタジック。

ドラマチックな設定をこれでもか、これでもか、と出しているようでも自然体。

出てくる役者さん達が皆、清潔感の視線でもって描かれているのですが、その底辺にあるのは無念への怒りなのではないかと。

甘い切ないラブストーリーと一見思える話ではありますが、結構監督の視線は厳しくて、冷静です。無念への怒りは爆発することなく内にこもっていく。そんな危うさがとても社会的だと思います。

主役の如月役の吉岡秀隆は、まず髪が白髪まじりなのに驚きますが、そんな一面をとってみても内面の苦悩がわかるし、ピアニストという役のため、ピアノを猛練習したけれど、演奏のシーンはほとんどカットされていて、正直「この野郎!」って思ったという撮影エピソードからして、監督の優しさを描くための厳しさというのがわかります。

石田ゆり子の姿勢の良さ。オーディションで選ばれただけある千織役の尾高杏奈の少女から大人まで表情を一瞬にして変えることのできる演技力・・・女性が美しい映画でもあります。

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