サヨナラCOLOR
2005年8月30日 渋谷ユーロスペースにて
(2004年:日本:119分:監督 竹中直人)
竹中直人は「照れ」の人なんだなぁ、と監督作を観るたびに思います。
そしていつも出てくるのは「不器用な人」と「美しい女の人」です。
美しい女の人の前で照れて、不器用なことしか出来ない自分にとっても嫌気がさして・・・という雰囲気がこの映画に漂っています。
海辺の街の中年独身医師、正平(竹中直人)がある日担当した患者は、高校の時ずっと憧れていた女性、未知子(原田知世)だった・・・という出だし。
正平は未知子の事をよく覚えていて、嬉しいし、また病気を知ってショックを受けるけれど、未知子の方は、正平のことを全く覚えていないのです。高校でもクラス全員をよく覚えているという事はあまりないし、私自身、高校の同窓会に行って誰だかさっぱりわからない人の方が多かったという経験あり。(私があまりクラスに興味を持っていなかっただけなのでしょうが)
この自分を思い出させようと必死になるあたりと、本当に全く覚えていないのです・・・という2人のやりとりが切ないです。
『私の頭の中の消しゴム』でも「忘れられてしまう事の方がつらい」ということが出てきたのですが、記憶というのは時に残酷です。
良い思い出も悪い思い出も気持ちに直結するものだからだろうし、年をとればとるほど、その「思い出」と「忘れてしまったこと」の量は多くなる・・・という訳で、この映画は大人の映画。記憶の蓄積の少ない子供にはわからない微妙な苦い感情を描いています。
もうひとつは、「諦める」ということ。何かを諦めなければ、今はない、そんな現実がわかっている大人の映画。
しかし、この映画は「諦める」ということの難しさも描いています。正平が未知子を忘れられず、諦められないだけでなく、自分自身を諦めるということがどうしても出来ない不器用さ・・・そんな視線も感じます。
正平は周りから顰蹙を買うほど、熱心に未知子を助けようとする。未知子には恋人がいるというのに・・・。
正平自身も潔癖な独身ではない。遊び相手もいるし、妙な女子高校生につきまとわれたりする。
時折思い出す、高校時代の出来事。しかしどのシーンでも正平は「主人公」ではない。背景に近い・・・という、自分が主人公を演じながら、主人公になれないジレンマを演じるというのは竹中直人ならではなのではないでしょうか。
しかし、正平の思いは、だんだん未知子に通じるようになる。その課程がとても丁寧。
竹中直人は、声優としても活躍しているだけあって、声が低くて、医師としての病気の説明などもとても説得力がある。
情けない面もあるけれど、医師としての活躍もさりげなく体現してみせます。
竹中直人の映画に出てくる女優さんは、細くて、色が白くて、ちょっと薄幸そうで・・・という共通点があるのですが、この映画の原田知世も同様。
そして今回は海辺がたくさん出てきますが、水を使った透明感の出し方などもとても綺麗。
さりげない映画ですけれど、とても切ないいい映画です。
一番好きなエピソードは、映画の中ではなくインタビューで、「49歳で初めて車の免許を取ったから、映画の最初のシーンは車に乗っているところにしたかった」という言葉。
この映画の正平が言いそうな言葉です。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
0コメント