ベルベット・レイン
江湖
2005年10月12日 銀座シネパトスにて
(2004年:香港:85分:監督 ウォン・ジンポー)
俳優として黒社会のボスの1人を演じて、この映画のプロデューサーでもある、エリック・ツァンが、香港映画は10年ごとに黒社会(やくざ)ものの画期的な作品を生み出してきた。80年代が『男たちの挽歌』、90年代が『欲望の街』、そして今度は『ベルベット・レイン』だ・・・と語っていますが、まぁ、自分の作品だからそれだけ思い入れがあるのでしょうけれど、確かに、今までの黒社会もの、とは違う視線がちらちらと見えます。
私が香港のヤクザものも随分変わってきたな、と思ったのはフルーツ・チャン監督の『メイド・イン・ホンコン』と『花火降る夏』だったのですけれど、実は見えているのに見えていないほんのちょっとの隙間の部分をクローズアップさせたようなデフォルメの仕方、登場人物達のリアルな生活感、若者のより刹那的な焦燥感といった理由なき反抗みたいな所です。
大体がわかりやすく、原因があって、理由理屈があって戦いになったり、復讐になったりする訳ですけれども、理由理屈で済まない所というのは、あまり描かれませんでした。無理やりなこじつけってなってしまうんですね。
ユニークなキャラクターとしての意味不明、というのはありましたけれど。(『欲望の街』のロイ・チョンの悪役のキャラクター2種とかね)
『インファナル・アフェア』シリーズというのは、人間関係複雑でも、それにはきちんと理由理屈がついています。
何故、警察はヤクザに潜入させるのか、また、ヤクザは警察に潜入させるのか・・・そういった理由から発生するドラマ。
この『ベルベット・レイン』の新しい所って、何故、がちょきんと切られているような所かもしれません。
そして奥行きを重視した映像。上から下から、カメラは自由自在に登場人物たちを映し出す。
普通あり得ない視線、というのが随所に出てきます。
大ボス2人(アンディ・ラウとジャッキー・チュン)は、事件をどうするか、ではなくてお互いのやり方、価値観の違いなどをえんえんと語り合う。
また、鉄砲玉になってヤクザとしての名声をあげたい、若者2人(ショーン・ユーとエディソン・チャン)は、ちょっと時代がわからないような、ポップな清潔感のある服装(ショーン・ユーのニットは、完全にヤクザじゃないです)で、とにかくなにかに焦っている。
この大人2人と若者2人を平行して描きながら、4人の男のヒリヒリした空気を出してみせる映像の部分というのがとても綺麗なシーンになっていました。
アンディとジャッキーが、イタリアンレストランで話をするシーンでは、お互いの顔のアップですが、よくよく見るとテーブルが少しずつ動いています。
まるで船に乗っているかのように、少しずつ背景がじりじりと動いている。
ショーンとエディソンが、走り出す一瞬の映像、右から左へ(またはその逆)ではなく、唐突に画面を斜めに横切って疾走していく。
大事件、大メロドラマ、大復讐、大対決・・・といった「大」がつくことのない、85分なんですけれど、こういう雰囲気の出し方は、他とちょっと違う所かもしれません。
ちょっとジョニー・トゥ監督の『ザ・ミッション/非情の掟』を思い出す、小さなこだわりの数々です。
これが10年に一度のヤクザ映画の金字塔・・・かどうかはわからないのですが、とても好きな映像世界。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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