スクラップ・ヘブン
2005年11月10日 新宿 K’S CINEMAにて
(2005年:日本:117分:監督 李相日)
この映画は、一言で言えば無茶な若者暴走もの。
先に観た友人は「私には重すぎた」ということでしたが、え~そう???そうかなぁ???そうですかぁ???
私はかなり気に入ってしまいました。カラリとした空気がなんとなく漂っているのです。
加瀬亮(警察官)、オダギリジョー(清掃員)、栗山千明(薬剤師)・・・この3人の若者。
ありがちな恋愛がらみの3角関係ではなく、あくまでも加瀬VSオダギリの話が続き、千明ちゃんは別の世界なんですね。
まず、加瀬亮、上手い!この人は一見普通の人で、「どこがかっこいいの?」と聞かれた事があるのですが、「普通の人」を何通りも演じる事
が出来る俳優さんではトップクラスに入ると思います。また、出る映画の選び方も上手い。安直な映画には出ないです。
オダギリジョーは、最近映画にたくさん出ていて、また出たオダギリ!(こういう事が言えるのは浅野忠信君とオダギリ君だけ)
・・・去年から『クラブ進駐軍』『血と骨』(その間にHNKの大河ドラマ)『パッチギ!』『イン・ザ・プール』『オペレッタ狸御殿』『忍』『メゾン・ド・ヒミコ』・・・そしてこの映画と、階段を駆け上がるように主役になってきているポスト浅野。
この3人はたまたまバスジャックに乗り合わせてしまった3人なのですが、犯人が拳銃を撃て!と半狂乱になって「次誰がやるんだ!誰がやるんだ!じゃんけんかっ!じゃ~んけ~~~~~~~~ん、ぽい!!」と喚くと、恐怖で凍り付きながらも、ちゃんと「じゃんけん」しちゃってる3人っていうのが、いいですね。結果は・・・私は笑ってしまったんだけど。
じゃんけん条件反射であります。
このオダギリ&加瀬のシーンというのがとても多くて、正反対の2人ですね。
この映画のキーワードは復讐と公衆トイレ。
『トレインスポッティング』思い出しますが、あそこまでは行ってないです。だってあれは世界一汚いトイレですから。
2人が会って話す場所がとても綺麗に撮られています。
加瀬亮は、警察の刑事課に憧れながらも今は事後事務処理に追われている。
上司(光石研)は嫌味で、同僚(中村靖日)などとは一切会話がない。居心地悪くて仕方ない。そんな日常を「世の中、想像力が足りないんだよ」とオダギリジョーに愚痴る。
反面、飄々としたオダギリジョーは復讐代行業をやらないか、と持ちかける。公衆トイレの落書きで人を募集、原則、復讐は人を傷つけないこと。しかし、そんな復讐ごっこも最初はワクワクしても、だんだん変な思わぬ方へ、暴走を始めるのです。
公衆トイレの落書きというもの。世の中から軽蔑されるもの。つまらないもの。そんな場を選んだセンスと見せ方がとてもドライで上手いと思います。
しかし、暴走が始まってから、刑事課の柄本明から目をつけられて「お前、死ねよ」という台詞と本気で1シーン、1カットで加瀬君を殴る蹴るのシーンは凄いと思う。 結局、馬鹿な事をする子供は罰せられるのだから。そんな事実が重くなってくる加瀬君です。
しかし、無謀なようでも父の為に、コンビニのスナック菓子を全部買い占めるオダギリ君のシーンなんかさりげないけれども実は重要なんですね。加瀬君は愚痴るけれど、オダギリ君は語らないで即、行動に移す気力、体力、知力がある。そんな怖い若者のある一面。
加瀬君が、「栗山千明さんの静かな演技は勇敢」と言っていたように、栗山千明は私キレイでしょ、見てよ、見てよ、という空気が全くなく、むしろ「見ないでよ」という演技と固い表情がいいです。 男2人とつるもうとしたり、利用しようとはしないで1人の世界を持っている。
この3人に共通するのは、コンプレックス。
しかし、ベクトルの向いている方向が3方向のコンプレックスなのです。
そこら辺が、陰湿ではなくむしろサワヤカとすら感じさせる空気が漂っています。
投げやりでもなく、陰湿でもなく、ひねくれているわけでもなく・・・世の中への恨みを発散させようという2人の男と1人の女。そういう視線がめずらしい。
コンプレックスはあるけれど、それを誰かのせいにしないで、ひとり背負っている若者たち、というわけで、甘えが見えないのです。
自立したコンプレックスですかねぇ。そこら辺が、とても私の情感にピッタリきちゃったのでしょう。。
「今時の若者はっ!」っていう怒った傲慢な視線でなく、「ありゃ~こりゃ、やっちまいましたか・・」みたいな視線なので、緊張と緩みの山のつけ方が上手いのです。 暗くなりそうな所を上手く笑いでかわしたりする技があるから観ていて精神的にきつくならないのです。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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