東/Tong
(併映)わたしたちの十年/Ten Years
2007年11月24日 有楽町 朝日ホールにて(第8回東京フィルメックス)
(2007年:中国:『東』66分、『わたしたちの十年』10分:監督 ジャ・ジャンクー)
特別招待作品
去年、東京フィルメックスのオープニング作品だった『長江哀歌』は、ダムで沈みゆく街を舞台にしたものでしたが、この映画を作るきっかけとなったのは、もともとは、ダム工事の労働者たちの姿を絵に描く、中国現代油絵画家、リュウ・シャオドンのドキュメンタリーを撮ったことから、という話を聞いていたのですが、『東』はその元になったドキュメンタリーです。
山峡ダムの労働者たちを描く・・・だけでなく、後半はタイ・バンコクに行って、女性たちを描く連作の課程を追ったものです。
リュウ・シャオドンという人は画家であるばかりでなく、俳優として映画にも出ているそうで、そう言われると俳優さんのように体格も良く、ひきしまった体をしていますが、何よりも知的な人です。
中国とタイという、温度の全く違う2つの世界を、監督は「特に意図なくカメラを回した」と語られていますが、何が起きてもびっくりしない、ジャ・ジャンクーという人は、わたしの勝手なイメージだと、カメラを熱心にのぞく、というより、その場にいつもいて、風景を目を細めて黙って見ている・・・という印象を受けるのです。
リュウ・シャオドンという人は、山峡ダムでは外に出て、男たちの姿と共に、湖や山の風景も描くけれど、バンコクに行くと、部屋に女の子たちをモデルとして招いて、絵には人物だけで背景は一切描かない・・・という風にします。
絵が近くで見ると荒っぽい筆遣いなのですが、それがカメラがひいて大きな一枚の絵となると、もう、写真のように写実的な活き活きとした、今にも動きそうな人物に見えるのが不思議というか、さすがであります。
なぜ、タイの風景を描かないのか・・・リュウ・シャオドンは、あまりバンコクの暑い気候が好きではない・・・と語る部分がありますが、残して起きたい風景は山峡ダムの方だったのかもしれません。
あくまでも、タイの美しい若い女性たちの素肌に魅せられているようです。
漫然と観ていると、撮る方もただ、漫然とカメラを回しているだけ・・・のようにとられてしまうかもしれません。
初めて、ジャ・ジャンクー監督の映画に触れたという人には、退屈・・・かもしれないけれど、もともとジャ・ジャンクー監督の映像スタイルというの全てこんな感じなのです。
主義主張というより、ひとりの画家が人の筋肉を描くように、画家の筋肉をカメラの向こうで見ているような・・・なんのフィルターもかかっていない、そのもの・・・だけがある、というシンプルさが特徴なんですね。
『わたしたちの十年』は何かのキャンペーン用に作られた10分の短編。
1997年から2007年まで・・・列車の中の2人の女性だけで、10年を描くという。
ジャ・ジャンクー監督の映画の常連女優である、チャオ・タオは、最初はひとりで、恋人が出来て、結婚して、子どもが産まれる10年ですが、もう1人の若い女性、ティエン・ユェンは、いつまでも若いままで、その時々のチャオ・タオをポラロイド写真に撮る。
そして、また、2人きりになったとき、「何故、あなたはいつもこの列車に乗っているの?」
笑って答えないティエン・ユェン。
中国という大きな国を、列車の中だけでとらえてしまった、10分とはいえ印象に残る短編映画。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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